ここのところ瀬戸内の話が続いているので、たまには山のお話をいたしましょう。
ある年の4月下旬、BD-1 (現Birdy)Alfineを山がちのところに持ち込んだならどうなるかということで、ブロンプトンで眞原(山梨県北杜市)の桜並木を走ったあとに、韮崎からBD-1を汎用の輪行袋に入れて、中央線の下り列車に乗りました。
中央線に乗りなれている人は分かると思いますが、電車が甲府盆地を横切ったあと、釜無川の支流である塩川を渡り、韮崎駅を通過した途端に、急こう配ののぼりにかかります。
次の新府など、電車が発車しようとしてブレーキをはずした途端、いきなり後退してしまうほどの登の途中に駅があります。
この登りは、八ヶ岳を進行方向右手に見ながら、韮崎から五つ目の駅である小淵沢と、その次の信濃境駅の間にある、山梨・長野県境(甲六川という八ヶ岳南面の沢)まで続きます。
この日はBD-1電車で小淵沢まであげて、そのあと七里岩ラインに沿って台地上を韮崎まで下って戻り、その間にこの地域にある桜の名所を愛でようという考えでした。
BD-1のAlfineというモデルは、今は無くなりましたがシマノ製内装の段ギアを搭載しているモデルで、タイヤも18×1.5と、普段乗りなれているブロンプトンより少々ごっついタイヤをはいています。
この自転車、アップダウンの激しい山岳路も走破可能ということで、ゆくゆくは長野・埼玉県境にある中津川林道を通って佐久から秩父まで走破する気でいました。
中津川林道というのは、1980年代のオフロードバイクに跨った走り屋さんたちには、先般ご紹介した山梨・長野県境の大弛峠越え(川上牧丘林道)とならび、超有名ロングダートコースだったのです。
県境にある三国峠だって、標高1,740mもありますし、途中に手掘りのトンネルがあって、なかなかの秘境ぶりだったのです。
ところが、中津川林道は2016年8月の台風によって途中が大崩落してしまい、その後復旧の目途さえ立たず、自転車を担いで通り抜けることすら困難ということで、希望が潰えたままになっています。
次に狙うは福島県の会津桧枝岐から奥只見湖、枝折(しおり)峠を越えて、新潟県の小出へ抜ける樹海ライン(国道352号線=一応全線舗装)か、長野県小谷村の雨飾温泉から、新潟県の妙高高原へと抜ける林道妙高小谷線(乙見峠越え)ですが、どちらも一度しかオートバイで越えたことが無く、もの凄~く森のくまさんに出会う確率の高そうな林道だったため、単独行は腰が引けているという状態です。
それはさておき、このBD-1を山に持ち込んだらどんなもんじゃいと、深山に持ち込む前に、手ごろで鉄道線に沿っていることでいつでもリタイア可能で、かつ下り坂の多い七里岩を試験的に走行することにしました。
七里岩というのは、今から20万年前、八ヶ岳の噴火による山体崩壊で引きおこされた岩屑流(がんせつりゅう)を、年月をかけて東の塩川と西の釜無川が削り取ってできた、韮の葉状の台地のことで、その先端にある街ということから韮崎の名前がついているそうです。
実際に、両側は断崖になっており、一度河川の方へ自転車でくだってしまうと、台地上に戻るのはかなり大変そうです。
幸い、この細長い台地の上を中央線とつかず離れずに山梨県道17号北杜韮崎線(通称七里岩ライン)が走っており、この道を大きくそれなければ、概ね下り勾配で韮崎駅へ戻れるわけです。
但し、ひたすら県道を走るなんて野暮なことはいたしません。
それではツーリングやドライブとなんら変わりませんから。
あっちの脇道、こっちの杣道と、自転車ならではの機動力を活かし、桜を追いかけてゆくつもりです。
ということで、モーターが唸りをあげる中央線の車窓にて、時折林間からみえる八ヶ岳や甲斐駒ケ岳を愛でながら、高原鉄道で有名な小海線の乗換駅である小淵沢で下車します。
さすが、標高が886.7mもある小淵沢駅で、降りた途端に「さむい」と感じ、冬用の革手袋はあるものの、上着は上り坂もあることを想定してフリースしか着てこなかったことを後悔します。
もうすぐ5月になろうというのに、ここではまだ早春賦の世界に近いような気が。
話は脱線しますが、あの歌、童謡にしては歌詞が難しすぎるような気がします。
だいたい、題名からして「賦」なんて。
「寄す」が贈るという意味に対して、「賦す」は詩作するです。
なお、この歌われているのはここではなくて、松本の先の安曇野ですよ。
駅でBD-1を展開していると、車に乗った若いお兄ちゃんから、「カッコイイねぇ、その自転車」と声が掛かります。
やはりBD-1は格好よく見えるみたいです。
このハイポリッシュは飛行機でいったら昔のアメリカン航空みたいに光ってますしね。
そういえば、ここまでテカテカなクロムメッキ仕上げのオートバイや車って、あまり見ないですね。
傷が目立ちやすいし、映画の新型ターミネーターみたいだからかな。
わぁ、そう思ったらBD-1がT-1000(系つけたら電車みたい…)に見えてきた。
走り出してすぐ、廃校になった学校の跡地でしょうか、桜の樹に囲まれた広場で地元の皆さんがゲートボールをやっています。
なにか、絵の中の風景のようです。
そして、家々の向こうに見える甲斐駒ケ岳は雪をいただいて、まさに山の団十郎です。
ただ、まだ畑は土おこし前後なのか、茶色のままです。
この先、どれだけ桜に会えることやら。(つづく)