鈍行の旅で尾道に着いた翌日、朝一番の下り山陽本線に乗車しました。
目指すは竹原。
朝早く街並み保存地区をブロンプトンで散歩してみようということになりました。
竹原駅から保存地区までは片道1kmあり、ブロンプトンがあれば手早く往復できます。
尾道に宿泊していて、西隣の糸崎駅まで走れば、呉線直通の一番電車に始発から乗車できるのですが、たったひと駅の間が9.1kmもあり、5時05分発の呉線始発に乗車しようと思ったら、午前4時半には出ないと心もとなく、しかも冬場の夜空に国道2号線を自転車で走るなんて、居眠り運転の車にひっかけられでもしたらたまらないので、おとなしく5時57分尾道発で二つ先の三原まで行き、三原6時12分発の下り2番列車に乗ることにします。
三原ではお向いに停まっている電車に乗り込みました。
おっ、車両が新しい。
呉線に乗り換えた電車が三原を出て、沼田川を渡ると、進行方向左手には瀬戸内海が広がります。
昨日関東からの旅では、神戸の先の須磨浦海岸あたりのほかは、尾道到着時直前でしか拝めなかった瀬戸内の海です。
このあたりは、鉄道車窓屈指の絶景で、ために呉線は徐行運転をするほどです。
こんな朝の薄暗い中、乗っているのは10人に満たないのに、列車は律義に徐行運転をしてくれます。
ふと見ると、海から湯気のようなものが立ちのぼっているのがはっきりと見えます。
あれは北海道では「気嵐(けあらし)」といって、夜間放射冷却によって冷やされた空気が、気温に比べて暖かい海のうえに流れて水面の水蒸気を冷やす際におきる、蒸気霧です。
遠くから見ると、海が湧きたっているようにみえます。
薄明の空のもと、対岸の島々が山のようにも見立てられ、そう考えると雲海のようにも見えます。
もちろん、太陽が昇って気温が上昇すると、この霧は消えてしまいます。
なんだか海面をみせる為に電車が徐行してくれているみたいで、思わずシャッターを切りました。
これと同じものは、朝の温水プールで見ることができますよ。
学生時代、掃除のために真冬の朝6時に温水プールに入ったら、夜間は空調暖房を切っていて、それでも水温を下げないためにボイラー循環は行っていたために、プールの水面がまさに蒸気霧状態でした。
そっと水に入って、ワニのように水面から眼だけ出したら、超巨大露天風呂に入っている気分になりました。
もっとも、水中では前日までの汚れ(主に人の皮膚=つまりは垢)が、幾本もの竜巻のようにくるくると渦を巻いていて、まさに「垢嵐」状態になっています。
それを網ですくいながら、「ううう、プール掃除はさむい」と唸っていたわけですが。
三原から竹原にかけての呉線沿線は、私の経験でも日本屈指の美しい沿岸鉄道路線だと思います。
海辺の国道185号線をオートバイで走ったときも、あちこちを走ってきたけれどこれほどの景色はなかなかないと感じていました。
私が良く行く葉山から江の島にかけての海沿いも、正面に江ノ島や富士山が見えることで、普通の海岸線とは違う特異な景色になっていますが、こちらは芸予諸島の島々が重なって、それこそ海に浮かぶ山々のように見えるのです。
写真のように朝早くや夕暮れもお勧めですが、できれば日が傾き加減の時間帯に、尾道から竹原に向かってのんびりとブロンプトンで海岸線を走ってみたいものです。
広島県は、尾道から呉までの区間を「さざなみ海道」としてサイクリストに売りだしているのですが、それならもう少し自転車が走りやすいように、路面を整備してほしいものです。
なお、あまり行きなれない人だと、尾道と竹原は近く思われるのですが、実際には60km以上距離が離れており、のんびりと走ったら半日ではおさまらない距離です。
また、途中須波や忠海(ただのうみ)といったフェリー乗り場があって、とくに忠海はうさぎの島として有名な、大久野島への船が出ているため、海に出たくなる誘惑の多い沿道なのです。
もっとも、自分なんかの世代では、大久野島はうさぎの島というよりは、毒ガス工場の島として有名でしたが。
電車は造船所なども見ながら、須波の先で南から西へ方向を転じます。
このあたりの海は三原瀬戸と呼ばれるのですが、徐行している電車を、漁場に向かう漁船がものすごいスピードで追い抜いてゆきます。
きっと出漁の時間が決まっていて、少しでも良いポイントを取ろうとしているのでしょう。
それにしても、最近の漁船は足が速いですね。
昔の瀬戸内は、ポンポン大将と呼ばれる焼玉エンジンの音が、朝の風物詩だったのに、なんだかせわしないなと思ってしまうのでした。
(あのエンジンは整備が悪いと、ガチャガチャとうるさかったのです)