(敦賀駅にて)
2019年3月29日をもって、えきから時刻表がサービスを終了するそうです。
このニュースはものすごいショックでした。
なぜなら、当該サイトはブロンプトンをつれた旅の計画でも、このブログを書くにあたっても、ほぼ毎回参考にしていたからです。
理由は紙の時刻表にいちばん近かったという点でしょうか。
「こちらのサイトの方が、操作は単純ですよ」と言われても、旅の専門家を自負している私にとって、自分の手で行程を組み立てることのできる「時刻表」は必携のツールなのです。
時刻表には、おおまかに二つの形式があります。
ひとつは、その地点を出発する時刻を時系列にまとめたものです。
最左列に一時間刻みの数字が縦に並び、右方向へその一時間の早い出発列車(便)から順に、発車時刻が分単位で並んでいます。
数字の色で種別を表したり、行き先を略号で併記したりしています。
駅やバス停の時刻表でお馴染みのタイプです。
これは、都会などでは時間毎の列車(便)数がすぐにわかりますし、田舎では出発列車の全くない時間帯がひと目でわかります。
もうひとつは、運行列車(便)の出発・到着時刻及び通過について縦に時刻と記号を表記したもので、冊子になっている時刻表のほか、新幹線の駅やデッキに掲示されているタイプです。
こちらは、縦に読むとその列車の運行区間・時刻、所要時間が手に取るようにわかりますし、そのほかにも、各列車の種別や名称、編成やサービスの有無までわかります。
運行が複雑な路線では入り繰りがあるため前述の一地点における時刻表よりは少し読むのにコツがいるものの、このタイプの時刻表を横に読めば、該当駅の発着時間が掴めます。
時刻表マニアが好むのは、こちらのタイプの時刻表です。
「時刻表みたいな数字の羅列を見て、何が面白いの?」と子どもの頃はよく訊かれたものです。
私も最初に見た時は、巻頭のカラー刷り索引地図以外は興味がなかったと思います。
しかし、旅をしては帰ってから行った場所を反芻し、そこから路線をひいて列車運行時刻表を眺めているうちに、いろいろと想像が湧くようになってゆきました。
時刻表の最初の方に出てくる東海道本線であれば、最左列に東京、新橋、品川…と漢字の駅名が並び、逆の右側にはとうきょう、しんばし、しながわ…と平仮名で表記されています。
これは幼児の私にとっては漢字の学習でした。
始発駅や大きな乗換駅は太字でポイントも大きく、駅名脇には駅弁マークやみどりの窓口マーク、それに発着時刻が別々になっています。
そして、その駅名の羅列を縦にみてゆくと、旅を重ねるに毎に、どんどん想像が膨らむようになってゆきました。
たとえば早川であれば、駅のホームからでも見える(魚籃)観音像、由比なら車窓からちらりと見える桜エビが両側から水引を引っ張っている駅前通りのアーチ、三河大塚なら、駅裏に湘南色そのままに実るミカン畑、尾頭橋なら、出発した下り列車がカーブを切った先で並走する名鉄線の向こうにチラリと見える松重閘門等々。
いずれも車窓をちゃんと見ていないと見落としてしまう対象なのですが、車窓マニアの空想とはそんなものです。
車窓からは直接見えない情景や、今は失われてしまった景色も想像できます。
国府津であれば昔駅の手前山側に残っていた機関庫と転車台の跡(御殿場線が蒸気機関車で東海道本線として運行されていた時の名残)、掛川なら伝説のつま恋フォークコンサート、弁天島なら舘山寺の観覧車など、旅好きにとっては、単なる駅名の羅列には見えないのです。
そして、ここに列車の時刻表が加わると、この季節、この時間帯に通過したら、こんな景色が見えるに違いないと、想像は尽きません。
このように、旅好きにとっての時刻表とは、俗に机上旅行と呼ばれるトラベル・シミュレーター以外の何物でもないのです。
だから、頭の中に全く地図が入っていなくて、例えば駅にて路線図運賃表ではなく、50音順運賃表から目的の下車駅を引いて、切符を買うなんて行為は想像すらできません。
こんな風に、子どものころから空想旅行をしていた私が旅行会社に入った理由の一つは、「タダで大好きな時刻表がもらえるから」でした。
その月が終わったら、「資料用」と文字の入った表紙を破れば、家に持って帰っても構わないことになっていました。
もっとも、会社では時刻表を眺めて空想に耽るほどの時間など、全くありませんでしたけれど。
しかし、絵を描けねば建物の図面がひけないように、空想ができない人に旅を企てることは困難だと思います。
ネット社会になって、出発地点から目的地までをすべて計算して出してくれるサイトが林立するようになっても、私は見向きもしませんでした。
一地点の出発時刻を表すだけの時刻表及び、検索結果だけを出してくれるサイトは、次のような問題点があるのです。
1.標準の乗り換え・乗り継ぎ時刻で計算する
標準の乗り換え時間というものは、えらく悠長にとってあります。
乗車位置や乗り換え口を工夫すれば、ひとつ前の便に間に合い、乗り換えの多い旅など、目的地に1時間以上の誤差が出ることなどざらです。
2.車窓の愉しみ、乗り換えの容易さ、煩雑さ、始発駅の着席し易さなどは考慮してくれない
たとえば、天気の良い日に新宿から四ツ谷まで中央-総武線の各駅でゆくのと、丸ノ内線でゆくのでは気分が違うように、AIはこの路線を通れば海が見えるとか、桜を車窓から愛でることができるとか、考慮してくれません。
また、お向かいのホームの電車に乗ればよいのか、同じ駅でも縦に何階分も移動を強いられるのかで、ブロンプトンなど持っている場合はずいぶんと差が出ます。
さらに、始発駅はどこか、そして該当駅へいつ行けば座れる電車に乗れるのかなども、読み取ることはできません。
(どこの駅にどの時間帯に始発列車が多いか、予め知っていれば可能ですが)
3.ブロンプトンを使用したエクストリーム乗り換えなどは対応しにくい
このブログで以前紹介した、京王多摩線稲城駅~JR南武線稲城長沼駅とか、東急東横線代官山駅~JR湘南新宿ライン恵比寿駅など、通常の乗り換えではできないような乗り換えをする場合、京王稲田堤~稲田堤、渋谷駅乗り換えの場合と比べて有利なのか変わらないのか、シミュレーションができません。
いや、両駅の駅時刻表を見比べればやれないこともないですが、どうすれば一本早い電車に乗り継げるのかを検証しようにも、作業は非常に煩雑になります。
これは、例えば渋谷の街中にいるときに、新宿まで行くのに山手線を使うか副都心線を使うかなど、同じ区間を乗るのに経路が複数ある場合でも同じです
もちろん、時刻表に乗り換えや駅のホームまでの移動の際に、折りたたみ自転車を使うなんてアルゴリズムを組み込むこと自体、ナンセンスなことは百も承知の上です(笑)
4.旅行プランを立てる際に一番面白い、経路や乗り換え、乗り継ぎ便の選択をすべて機械任せにしてしまう
旅はプランをたてている時が一番楽しくて、実際に出かけた際に見聞するものは、企画の際の想像とのギャップだけだという意見もあるくらい、計画は大事なのです。
その部分をAIにやらせてしまうなんて、旅に出ても景色や経験を評価しようがなくなってしまいます。
このブログでもよくやっている、青春18きっぷ(鈍行)の旅で遠くまで行くような場合、列車ごとの動きが分かる縦の時刻表が無いと、計画自体が立てられません。
ちょっと長くなりましたので、明日また時刻表を調べることの意味について、続きで書きたいと思います。