大弛峠からブロンプトンに跨り、柳平から焼山峠、乙女高原を経て水ヶ森林道を抜け、太良峠まで下ってまいりました。
ここから武田信玄の居城であった躑躅ヶ崎館のあった武田神社までおよそ10㎞。
甲府駅までも12km。
もう駅まで僅かだから楽勝だ!(といつものように足元が見えていません)
ここからの道幅は2車線分あり、ヘアピンが連続する下り坂ながら見通しが良いのでブロンプトンはオートバイ並みの速度でひらりひらりと下ってゆきます。
オートバイと違って自転車はタイヤ音しかしないので、対向車の気配をより繊細に感じる事ができます。
もっとも、飛ばしすぎて転倒したら大変ですから、速度は原付スクーター程度までに抑えておきます。
(ヘルメット持ってきてコーナーを攻めることも可能ですが、ブロンプトンの趣旨からは外れるような気がして)
ところが、太良峠からくだって最初の集落をすぎ、武田神社まであと5kmを切ったあたりで、道幅が突然狭まり、路面も簡易舗装のコンクリート仕様になって、小径車にとっては荒れた路面になってしまいました。
普通の峠道なら、麓に近づけば近づくほど道は良くなるものなのですが、ここは逆です。
急坂なうえに滑り止めの細かい溝が路面に彫ってあるため、乗り心地が最悪になり、これまでの快速から一転そろりそろりと下ってゆきます。
これも信玄の軍用道路だったからかな、などと思っていたら、後輪が急にバタバタしだしました。
パンクです。
あちゃあ、やってしまいました。
何が楽勝だぁ・・・。
スマートフォンの地図で現在位置を確認すると、これから行こうとしている積翆寺(せきすいじ)温泉までは1㎞ちょっと、甲府へのバス停がある積翆寺までは1.8㎞、武田神社まで4.2kmという地点でした。
この頃はまだ山の中へチューブとパンク修理工具を持ってゆく習慣がありませんでしたから、これだけ街に近い場所でパンクしてくれたのがラッキーだったのかもしれません。
とにかくもう少しだからと、押し歩きで積翆寺温泉に辿りつきました。
積翆寺温泉は、信玄の隠し湯と伝えられる温泉の中でも筆頭です。
なにしろ居城の裏手、要害山城の下にあるのですから。
太良峠から下って来ると、最初に古い木造で今は使われていない湯治場のような建物があらわれ、それを巻くようにして下ってゆくと、仲川という川の向こう、屋根上と玄関の両脇に大きな武田菱をいただいた要害という名前の旅館があらわれます。
「お、お屋形様!」と、心の中では大河ドラマの「風林火山」のテーマが回ってしまいました。
でも、旅館は鉄筋でお城(といっても近代の)を意識した建物です。
旅館要害へ入ってゆく橋の左手が、要害山城跡へと続く登山口となっており、城跡まで上り30分少々だそうです。
私は大弛峠でミニ登山をしてきましたから、今回は遠慮します。
積翆寺温泉は、ここ要害とこの下にあって信玄が産湯を浸かったとされる井戸がある臨済宗妙心寺派の積翆寺から、西沢川という別の川を遡ったところにある古湯坊の2軒の旅館からなります。
ただし、両館とも2017年春には閉館してしまい、要害は福祉施設に、古湯坊は再建のさなかにあるといいます。
後で温泉に詳しいもう一つのブロンプトン旅ブログを綴っていらっしゃる方に伺ったら、「あそこはお湯が死んでいるから」とのこと。
そうなんですよね。
東日本大震災以降、お湯が枯れたり成分が変わってしまった温泉の話をあちことで聞きます。
時刻は14時20分。
まだまだ時間に余裕があるので、700円を支払ってエレベーターで階下へ下り大浴場へ。
この時間ですから、先客は一人しかおりません。
改めてフロントにお断りして、自分独りになったあとに浴室内部の写真を撮らせていただきました。
脱衣所の説明書きによれば、明治の頃は、信玄公隠し湯の伝説のある、村の人たちが野良仕事帰りに入る共同浴場だったそうです。
あるとき、この家の幼児が火傷になって、膏薬を塗ってもちっとも治らなかったのに、この温泉を浴びせたら、たちまち効果が現れたため、この家の当主が広く病者の役に立てばとこの旅館を開いたそうです。
明治27年(1894年)1月の開業ということですから、創業からゆうに100年以上経っているわけです。
泉質は単純泉とあってカッコ書きで低張性弱アルカリ性低温泉と記してあります。
源泉温度は25.6℃でぎりぎりです(温泉と呼べるのは25℃以上)
これは加熱してあるでしょう。
でも成分が薄いのを逆手にとれば、肌に優しく、また水分を通しやすくて湯あたりしにくい、疲れを取るにはもってこいのお湯ということにもなるのです。
中へ入ると内湯の湯船も大きく、カランにシャワーも十分で、露天風呂まであります。
さっそく身体を洗ってから露天へ。
いやぁ、こんな大きなお風呂を独り占めって、なんて贅沢なんだろう。
既に初夏ですから白く霞んでいますが、甲府盆地がすぐ下に見えて、日が沈んだ後は夜景が美しいと思います。
お風呂で疲れた足を思い切り伸ばしてストレッチしていたら、眠くなってきてしまいました。
外気は涼しくはありませんが、よーくお湯船に浸かって汗を出しきった後、冷水シャワーを浴びてから浴室を出ます。
今回は最初からお風呂に入るつもりでしたからセーム皮という、かさ張らない拭き取りタオルを持ってきましたが、要害さんの方でバスタオルを貸していただいたので不要だったかもしれません。
その分持ってこなければならなかったのは、チューブとパンク修理道具でした。
脱衣室の扇風機にあたっていたら、登山、ブロンプトンでの走行、温泉と、身体の中の悪いものを水分と一緒に思いきり出した感で満たされてしまいました。
ああ、何か飲みたい。
こうして早朝にプチ登山をして、ブロンプトンで走りながら山を下り、温泉に浸かって汗を流した後に、ビールでもきゅっと一杯ひっかけて、あとは電車の中でひたすら船を漕いで帰ることができたら、理想の山行です。
ブロンプトンはパンクしているし、どうせだからそうしようかなぁと思ったのですが、まだ日も高いですし、腰に手を当てて牛乳で我慢しておきました。
お風呂からあがってちょうど15時です。
さぁて、どうしたものよのぉ(場所が場所だけに自然に武士語)と、すっかり軽くなった体をフロントのソファにあずけながら、考えるのでした。
(つづく)