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Channel: 旅はブロンプトンをつれて
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花魁渕にブロンプトンをつれて(その2)

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花魁渕のまわりを丹念に観察してみましたが、やはりそれを示す説明板も碑もすべて撤去されて、未知のひとにはここが花魁渕かどうか、完全に分からなくなっています。
さらに、その先に架かっていた橋は、崖に造作されて支えていた基礎の部分を残して完全に撤去されていました。
深い渓谷をはさんだ向こう側、シェードのうえに「これより丹波渓谷カーブ多し、ゆっくり走れば楽しい丹波路」という標語がでかでかと掛かっています。
橋も向こう側が山梨県北都留郡丹波山村で、手前は同じ県内でも甲州市塩山一ノ瀬高橋と下流側が郡部、上流側が市部と不思議な分けられ方をしています。
そして、一ノ瀬川と合流した柳沢川は、丹波川と名前を変えて奥多摩湖に向って下ってゆきます。
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(淵を覗くとこのようなチムニー滝になっています)
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(一之瀬川にかかっていた橋は、桁が外されています)
 
紅葉は終わっていたものの、この辺りは落葉樹が多く、盛りの時期であれば川の急流や滝と相まって、さぞかし美しい眺めだったと思われます。
それに、川が幾重にも屈曲しているということは、それだけ太陽光線に対する流れも変化に富んでいるというわけで、写真を撮っていても「もし紅葉があったなら名画のような眺めだったろうな」と思わせるポイントがいくつかありました。
また、釣りにはあまり詳しくありませんが、こういう水面に近寄りがたい場所では、それこそ「すれていない大物」が渕の岩陰に潜んでいるのではないでしょうか。
私のような素人にはよくわかりませんが、釣りをしている人に聞くと、あれは魚との知恵比べが楽しいのだといいます。
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(絶対に降りられそうもないしのぼれそうにもありません)

だから、危険個所を除去したうえでひとが入れるようにした方が良いように思えました。
いくら旧道を廃道にしたところで、路盤や法面の崩落防止工事はしっかりと行われていたので、遊歩道として再整備すれば観光名所にもなるのに、なぜここまで人を寄せ付けないようにしているのでしょう。
それに、花魁渕の痕跡を完全に消し去ってしまい、初めて来た人にはここが地図に表記のある花魁渕かどうかすら分からないようになっています。
こうなってしまった原因を慮るに、旧道を放置していたら落石事故などでひとが亡くなったとか、新道が開通した後、旧道に入ってきて自殺する人が後を絶たなかったとか、ネガティブな理由しか思い浮かびません。
保存会もあるようなのですが、この場所がどうしてこういう状況になったのか、地元の人も何も聞いていないと話していました。
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(淵の下流、合流点にも見事な滝があります) 

実は、花魁渕の話はあくまでも伝説であって、史実ではないと述べる人もいます。
おそらく、確固たる一次資料が存在せず、伝承にすぎないのだと思われます。
かつてここにあった史跡説明版にも、出典は明らかにされていなかったと思います。
そもそも、金山の存在を秘匿するために、なぜわざわざ川の遥か上空に吊舞台を設けて遊女たちを殺害したのかが謎です。
口封じのためであれば、斬殺するなり、毒殺するなりして息の根をとめたことが分かる方法を取った方が確実であるし、川に落としても途中の木に引っかかってしまい、九死に一生を得て逃げおおせる可能性もありますし、遺体を回収できなければ、死んだかどうかさえ確証がもてません。
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 (花魁渕より上流にある藤尾橋)

黒川金山に働いていた坑夫や関係者を殺害したことはあったかもしれないが、それは花魁渕と呼ばれる場所よりも1.6㎞上流にある藤尾橋の付近ではないかともいわれています。
この藤尾橋は鉄製のワイヤーでつくられた柳沢川に架かる人道の吊り橋です。
車をとめるスペースは全くありませんが、青梅街道を注意して走っていればすぐ脇に見えます。
青梅街道から川をわたり、山腹を巻くようにして黒川金山跡まで道が続いていたのですが、現在は廃道になっています。
藤尾橋も主塔やワイヤーに錆が目立ち、桁の木材も朽ちかけていますから、歩行者ですら立入禁止になっています。
ただ、下を覗くと花魁渕ほどではないものの、川面まではかなりの高さがあり、2段から3段の滝が連続し、それぞれの壺にあたる渕もかなり水深が深そうです。
ここで斬られて落とされたら、まず生存は不可能でしょう。
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(下の川は渕になっています)

いま、黒川金山跡に行こうと思ったら、もっと下流の泉水谷林道で丹波川を渡り、対岸へ出たらすぐに上流方面へ向かって林道とは別の山道を歩く形になります。
たしか自分が高校生の頃、泉水谷の川では砂金が取れるという噂がありました。
山の中腹にある金山跡へ行っても、沢はあっても川はありませんから、ガリンペイロの真似事をしても無駄だと思います。
また坑道は塞がれていて、中へ入っても危ないですから、間違っても一獲千金を狙って近寄るようなことはやめましょう。
ひょっとしたら、花魁渕伝説はそういう山師を追い払うための伝承だったのかもしれません。
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(藤尾橋の袂から下を覗く)

なお、かつて花魁渕とされていた場所は、むかし東京都の水源涵養林を視察に訪れた人が、渓谷へと散る紅葉を眺めて、「まるで花魁が舞っているようだ」と感想を漏らしたことからその名前がついたという説もあるそうです。
そこにマスコミが怪談話を煽ったり、事故が多発したりしたものだから、人間の想像力が膨らんで、金山閉山の噂と結びついたのかもしれません。
それでも、もし自分の不幸な推理があたって、あの台から飛び降り自殺をした人が一人でもいたなら、悪い気がある場所になってしまっているでしょうから、夜などはいたずらに近寄らない方が良いかもしれません。
それにしても、どうして花魁渕の存在を秘匿しようとするのかが謎です。
ひょっとして、金ではないけれど何か価値のある石が出るとか、実は高価な植物や菌糸類が生えるとか、もっとポジティブな理由だったら、夢があってよいのでしょうけれどと思いながら、ブロンプトンへと戻るのでした。
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