富士山をいつ、どこから眺めて愛でるか、の続きです。
最後に残るのが北からの眺めです。
山に近い場所なら、河口湖や山中湖あたりから見るということになるでしょう。
場所によっては湖面に富士山も映ります。
静かに富士山と向き合うのなら、にぎやかな河口湖よりも山中湖の方がお勧めです。
ちょうど湖を挟んで対岸の山の上に、その名も「ホテルマウント富士」という富士急行系列のホテルがあります。
ここからの富士山の眺めは、まさに迫力があります。
夏など登山客の光の列が一晩中眺められますし、冬は月明かりに照らされて雪面が浮かび上がる富士山を観ることができます。
間近で眺めるのなら、ベストポジションではないでしょうか。
ただ、欲をいうと高さが少し足りないのです。
山中湖の標高はおよそ1,000m。
つまりそこからの富士山の高さは2,800mほどしかないのです。
北からの眺めの代表は、松竹映画のオープニング富士ですかね。
あれは雲海こそ合成されていますが、間違いなく山梨県側から見た富士です。
というのも、北から見る富士山は、プロポーション的にいちばん均整がとれています。
だからお札に描かれている富士山も北からです。
たとえば、今の五千円札や千円札の富士山は本栖湖越しの眺めです。
これらは、国道388号線中之倉トンネルの上にある、中之倉峠展望地からのアングルになります。
この場所へ行くには、本栖湖の公衆トイレ脇から30分ほど山道を歩かねばなりません。
山中湖や河口湖より富士山がやや遠くなりますが、それだけにすそ野の広さがよくわかります。
ただ、本栖湖まで西方向へ来てしまうとやはり大沢崩れが目立ちます。
また、こちらからだと大室山、長尾山、片蓋山、弓射塚といった、富士山の寄生火山正面にあたり、特に湖畔からだと気になります。
では北側でもっと離れてみたらどうでしょう。
旧五百円札の富士山は、大月市にある雁ヶ腹摺山からの眺めになります。
ここからの富士山は秀麗です。
やはり富士山はある程度離れて眺めた方がよいのかもしれません。
富士山の手前の山々も重なりますし、雲海越しに見るならある程度距離が離れている方が有利ですから。
雁ヶ腹摺山行き方は、大月市の北西、真木川をさかのぼって林道の頂点、大峠までゆき、そこから40分ほどの登山で到達できます。
但し、大峠は標高1,560mもあり、そこへ通じる真木小金沢林道は、冬季(2018年は12月10日~2019年4月下旬)は積雪により通行止めになります。
大月駅から林道の入口であるハマイバ前までバスで行っても(25分程度かかります)、そこから大峠まで徒歩で1時間45分というコースタイムが出ていますから、ブロンプトンで押し歩きしても同じくらいかかると考えてよいでしょう。
ところで、雁ヶ腹摺山(がんがはらすりやま)とかハマイバとか、名前が面白いですよね。
雁ヶ腹摺山という名前の山は付近に3つあるのですが、いずれも渡り鳥が越えるときにお腹を摺るくらい高いという意味です。
「ハマイバ」というのも、近くにハマイバ丸という山があるのです。
漢字では「破魔射場丸」と書きます。
なんだか船の名前みたいですよね。
一説には、山仕事の安全を祈願して破魔矢を射た場所ということですが、丸とつくのは、朝鮮語の峰をあらわす「マル」からきているといわれています。
それにしても、雁ヶ腹摺山は冬に登ろうとしたらかなり難易度が高いとおもいます。
もう少し現実的なのが大菩薩峠からの富士山です。
前にレポートしましたが、甲斐大和駅から栄和交通の上日川峠行ハイキングバスに乗り、終点で下車して歩くこと1時間40分、大菩薩峠より少し稜線をのぼった親不知ノ頭からの富士山の眺めは、雁ヶ腹摺山と方角的にはほぼ同様のアングルになります。
そして、今回行った国道411号線(青梅街道)の柳沢峠からの富士山です。
柳沢峠から見る富士山は両側の稜線の奥にかなり小さく見えるのですが、駐車場から竹森林道に入り、700m先までゆくと視界が開けます。
ここから見る富士山が、ブロンプトンで行って眺めるのならいちばん条件が良いと思われます。
いま別にご紹介している大弛峠から40分で到達できる前国師岳からの富士も、ほぼ同じ角度からになりますが、柳沢峠の方は距離が近い分富士は大きく見えます。
最後の竹森林道は、前半部分が結構きつい登りで、路面も粗い簡易舗装ですが、後半は斜度もゆるくなり、路面もぐっとよくなります。
あまり知られていないのか、滅多に車やバイクは入ってきませんので、心行くまで富士山と対面できます。
ただ、上日川峠や柳沢峠へ行くバスは、11月中でおしまいになります。
最後にまた時期の話に戻ってしまいますが、今年富士山にまとまった冠雪があったのは、11月に入ってからだし、そのころには山の上の紅葉はすでに終わってしまっていますから、紅葉と富士山の両方を狙うのではなく、富士山なら富士山を眺めることだけに的を絞った方がよいとおもいます。
また、写真撮影する人にとって一番大事な、美しく見える時間帯ですが、11月なら午前10時までくらいと、夕陽に照らされる午後4時半前後だとおもいます。
これは、季節や場所によっても変わりますし、順光か逆光でも見え方にかなり差が出ますので、光の差す方向、日の出、日没時間など計算しておかねばなりません。
それに、当日が晴天でなければせっかくの計算もパーですから、渾身の一枚を狙うのではなく、複数回行って場所の特性を知って、慣れておくことのほうが大事だと思いました。
なお、大菩薩峠にしても、柳沢峠にしても、標高が1500mから1800mくらいあります。
富士山に雪がたくさんあるような時期に行けば、当然に防寒対策が必要です。
また今回のように、場所によって積雪がある場合もあります。
自転車の運転は慎重に、くれぐれも初めての林道で道が良いからといって、下り坂では飛ばさないようにいたしましょう。
ブラインドカーブの先から自動車が出現したり、積雪があったり、何があるかわからないのですから。
そして、ブロンプトンをお持ちであれば、今回のテーマのように、富士山を眺めるベストポジションということで、季節ごと、天候ごとに、自分の気に入った場所をいくつか見つけると良いと思います。
そういう場所で、富士山を横目に新田次郎の「芙蓉の人」(文春文庫)とか、太宰治の「富嶽百景」などを読んでみるのも一興かと思います。(おわり)