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Channel: 旅はブロンプトンをつれて
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横浜の妙香寺にブロンプトンをつれて

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横浜の元町から南へ、山手隧道をくぐってすぐ左手の旧道を入り、500m先の左側に日蓮宗妙香寺はあります。
入口の右には「君が代発祥の地」の碑があります。
今日はこのお寺について書いてみましょう。
もともとは弘法大師が創建した東海寺という名のお寺でしたが、のちに日蓮宗に改宗しました。
 
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ときは1869年(明治2年)
鹿児島湾に停泊中の英国軍艦から聞こえてくる軍楽隊の演奏に感銘を受けた薩摩藩主島津久光が、薩摩にも軍楽隊を設けようと決意したことがお話の始まりです。
島津久光といえば、その7年前(1862年)に横浜の生麦で、自らの行列に馬で乗り入れてしまったイギリス人を無礼討ちにして、翌年の薩英戦争を引き起こした張本人です。
このころは維新も成就し、薩摩藩内では凱旋した下級士族との緊張も高まっていた頃ですから、ひとつ自分で楽団をつくって西洋音楽でも演奏させ、憂さを晴らしたかったのかもしれません。
ちなみに廃藩置県が断行されて、藩主の地位を失うのは、この翌年の1870年です。
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若年の藩士の中から32名の伝習生を選抜したうえで、英軍に指導を依頼しました。
当時のイギリス軍は横浜の居留地のなかで、いまの岩崎博物館がある辺りに駐屯していましたので、そこからほど近いこのお寺が伝習生たちの宿舎兼練習所になりました。
ですから、境内の中には「日本吹奏楽発祥の地」碑もあります。
ちなみに、なぜオーケストラ(管弦楽団)ではなくブラスバンド(吹奏楽団)かというと、軍楽隊の性質自体が野外での演奏を前提としており、その点弦楽器は向いていないので、金管楽器や打楽器が中心になっていたそうです。
指導はイギリス軍楽隊長のジョン・ウィリアム・フェントンが担当しました。
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フェントンは、まずは国歌の練習から始めようとしたものの、その当時の日本には国歌が存在しませんでした。
しかし開国後は外国から来賓を迎えることも頻繁になると予想されたため、薩摩藩の大山巌が中心となって、当時、奉祝歌として小唄や長唄でも広く親しまれていた「君が代」を歌詞に決めたといいます。
この経緯は、今でいえば唱歌の「ふるさと」を一部の権力者が国歌に決めてしまうようなもので、その歌詞の意味はともかく、天皇(大君)を称えるという意図はあまりなかったように感じられます。
そんな重要な歌だったら、一般歌謡として流布していたというのも少し変ですし。
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さて、歌詞はきまったものの、メロディはありません。
というか、維新前は西洋音階自体が存在していませんから。
討幕軍が奏でていたという「トコトンヤレ節」(作ったのは大村益次郎といわれています)だって、とても西洋音楽には聞こえませんから。
仕方なく、フェントンが作曲しました。
YouTubeで「初代君が代」と検索すれば、今でもこのお寺で1010日に演奏されるその曲が出てきます。
なんだかイギリス国教会で演奏されるアンセムみたいです。
しかも、フェントンが日本語を理解していなかったのか、節が歌詞と合わないところで切れているし。
きっと  GodSave The Queen”の日本版くらいのイメージだったのでしょうね。
今でもこの曲をお寺の客殿で演奏するなんて、なんてシュールな光景なのでしょう。
 
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それでも急ごしらえにしては上出来というべきでしょうか。
だって一般の人には「国歌?なにそれ?」の時代ですから。
これを聞くと、この歌はあとからどんどん権威付けされていってしまった不幸な歴史があるとわかります。
今「君が代を聴くと卒倒しそうになる」という方には、こちらのちょっと変わった君が代は如何と勧めたくなります。
また、君が代を法的に尊重しろと迫る人たちにも、「弥助(=大山巌の通称)がその場のノリで適当に決めたのだから、そんな四角四面に考えなくても」といいたくなります。
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伝習生たちは「サツマバンド」(なんだか芋蔓で作った帯みたいな名前だ)として翌年に、お寺のすぐ裏にある日本初の西洋式公園、山手公園のあづまや付近にて、演奏会デビューしたそうです。
若くて容姿も整っていた彼らは、今のアイドルグループのように人々から喝采を浴びたと伝えられています。
そりゃそうでしょうよ。
日常はチントンシャンしか聴いていない人たちの前に、いきなりビッグバンドが現れたのですから。
「君が代」については、音楽には罪はないと思います。
むしろ、それを利用しようとする人間の側の内面を見た方が良いのではないでしょうか。
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