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Channel: 旅はブロンプトンをつれて
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町田の高原書店にブロンプトンをつれて

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去年の夏のある日のこと。
教会帰りに小田急線に乗って町田へ向かいました。
もちろん、ブロンプトンですから渋谷から尾根伝いに一番近い小田急線の駅、東北沢からの乗車です。
町田はン十年前に市内にある学校に通っていましたから、よく知っています。
小田急線東口から出ると、むかしとあまり変わらない風景が広がっていました。
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正面に本屋さんの久美堂さん。
校則で、寄り道禁止だったもので、「セサミ堂」とか「すさみ堂」などと隠語で呼んでいましたっけ。
道草はだめでも、当時は小田急線の新原町田駅と横浜線の原町田駅と分かれていて、今のようにデッキでつながっていなかったから、必然的にマラソン通りと呼ばれる商店街を抜けてゆく必要があったのです。
沿道には有隣堂という横浜の老舗本屋さんが出張っていて、その後横浜線の駅が移転して連絡通路ができても、本屋さんに立ち寄る習慣はついていました。
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町田周囲には学校も多くて、それぞれ制服を着ている集団が、妙にけん制しあっていましたが、公立の学校は全国区で有名になるくらい校内暴力の嵐が吹き荒れていたのでした。
大学生になると、この近くに下宿している友だちがいて、家が遠かったものだから、部活の練習帰りによく飲みつぶれて泊めてもらいました。
二日酔いの頭痛を抱えたまま、一限に間に合うよう学校へ向かったのも、一度や二度ではありません。
お酒を断ってしまった今からでは想像もつきません。
また小田急線の東口に近い、その名もホテル新宿屋さんは、社会人になって、こちらに近い学校の添乗で朝が早い場合は、前泊のため何度か泊りました。
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町田ってちょっと変わった街なのです。
駅の周囲に市役所などの公共施設のまとまった地区、百貨店、古い商店街、飲み屋さん街、風俗街がそれぞれに存在して、その境が当時は畑や駐車場だったものだから、夜なんか闇の空間を隔てて各々がネオンサインで自己主張しているようで、まるで新宿の郊外版みたいでした。
これが東横線や新玉川・田園都市線沿線にミニ渋谷とか、郊外型渋谷みたいな街があるかといったら、絶対にありません。
武蔵小杉も、二子玉川も、溝の口も該当しませんでした。
最近になって二子玉はミニ渋谷っぽくなりましたが、あれは鉄道会社の戦略でしょう。
町田と比較されるのは立川かもしれませんが、町田の方が猥雑で埃っぽいところまでより新宿そっくりな感じだったのです。
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そんな町田にあって、小田急線の町田駅北西にある古本の高原書店さんが、きょうのお目当て。
自分が酒に呑まれて友だちの下宿で寝惚けていた時代の創業ですが、当時学校の近所に住んでいた狐狸庵先生とも交流があって、その名前だけは知っていました。
でも当時は絶版本とか古典とかに興味がなかったし、西洋哲学や芸術系の本を読んでもちんぷんかんぷんでさっぱり手応えがなかったので、行ったことはありませんでした。
その後、自分より若い直木賞作家がアルバイトしていたとかで、彼女の作品に登場するようになってから、町田駅北口からまほろ通り(読んでいないですけれど、作品の中で町田市はまほろ市になっているらしいのです)をまっすぐ行った先にある古本屋さんという認識に変わっていました。
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なぜ来たかというと、絶版になっているアウグスティヌスの『神の国』(服部英次郎・藤本雄三訳:岩波文庫)が全巻揃っていると日本の古本屋というサイトで検索したら出てきたからです。
アウグスティヌスの主著は『告白』とこの『神の国』ですが、後者は教文館の大型本か、服部先生の岩波文庫版か、入手できるのはほぼ二択です。
ただ前者は持ち歩きに適していないだけではなく、文庫本もですが全5巻でお高いのです。
本当は岩下壮一神父の『アウグスチヌス神の国』(大思想文庫)も読んでみたいのですが、古本屋でも置いていないほど昔の本なので入手困難なのです。
『告白』を読み終えた後、どうしても『神の国』も読みたくなって、現実的には岩波文庫版の古本を買うしかないという結論になり、少し前からネットで検索していました。
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本当は北口から出れば一番近かったのでしょうけれど、小田急線の町田駅というのは、都県境になっている境川の左岸崖線と交差するように存在して、川に近いバスターミナル側の出口から出ると、坂を上り返さねばならないのです。
それに、グーグルマップは等高線が入っていないから、高原書店の位置は確認できても、崖線の上にあるのか下にあるのかさっぱりわかりません。
ということでJR横浜線の出口も含め、一番高所にある東口からおりて、小田急線の踏切を越えてから西へ向かいました。
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駅のすぐ北を線路と交差しているこの道は、通称「まちかい」と呼ばれる町田街道の旧道で、古い商店が軒を連ねる昔ながらの道だったのですが、最近はビルやマンションが立ち並んで、むかしの面影はありません。
道行く生徒さんも、ブレザーに軽そうな鞄、髪の毛も明るい色に染めていて、これまた昔と全然違います。
あの頃、男子は長ランにあたまは庇のような突起が出ていて、女子はセーラー服に聖子ちゃんカット、不良は髪の毛が明るいというよりは、ケバケバしい色をしていました。
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そんな想像をしながら駅を背に旧町田街道より一本南に並行しているまほろ通りをゆくと、あと1本で市役所から続く栄通りに出るという手前右側、少しだけ坂を降りかけた場所に、高原書店はありました。
ちょっと見えづらい位置にあるので、ウロウロしてしまいましたが、北口からなら300mでブロンプトンだと2分もかかりません。
鉄筋四階建ての、昭和の図書館みたいなつくりの建物です。
この位置なら、今みたいに建てこんでいない時代は、境川や市役所、その向こうに相模原台地が良く見えたかもしれません。
夕方などは丹沢の向こうに富士山がシルエットで頭を出していたかも。
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入口奥の僅かなスペースにブロンプトンを停めて、店内へGO!
と、入口の脇に岩波文庫の旧装丁版がごっそりあるではありませんか。
パラフィン紙にくるまれていて、学生鞄に詰め込むとこの包装が良く破れたものです。
ボンタン飴なんて呼んでいましたけど、とくに青帯を読みこなすのが文学少年の憧れでした。
こんな場所にあるから、絶版本はないだろうと思いきや、柳亭種彦の『紫田舎源氏』(「にせむらさきいなかげんじ」と呼びます。江戸時代に書きなおした、室町時代版源氏物語ですね)とか、ビョルンソンの『アルネ』(読書好き地理オタク青年の成長物語です-笑)があるね…ダジャレ。
何よりも、8月末までは全品2割引きって、なんてお財布に優しいのでしょう。
割引のことはホームページにも書いてありませんでした。
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さて、取りおきを頼んでおいた哲学・宗教コーナーのある2階へあがります。
階段まで平積みの本で溢れていて、年季の入った古本屋さんです。
うわ、第1巻を読みかけのままほったらかしている『正法眼蔵』が揃っているし、山川出版の世界宗教史叢書も揃っている…。
で、レジに行って名前をいうと、なんと箱に入ってビニールに包まれた『神の国』が出て参りました。
中を改めてから購入するか決めたいのですがというと、どうぞどうぞと気持ちよく包みをとってくださいました。
中は書き込みや線引きもなく、ほぼ読まれていません。
これも2割引きということで、購入を決めました。
 
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と、フロントバッグに入れたらパンパンに膨れてしまい、仕方なく輪行カバーやらその他のものをサドルバックに移して、さて町田駅からどう帰りましょう。
学校のときと同じく横浜線で菊名に出るか、小田急で登戸まで行って南武線に乗り換えて武蔵小杉に出るか…
どちらも座れないし、乗換駅にエスカレーターやエレベーターがついておらず、この荷物で重くなったブロンプトンをえっちらおっちらと抱えて階段を上り下りしなければなりません。
夏だからまだ日も高いし、家まで走って帰るかと思い、何十年振りかで学校の中を抜けました。
自分が通っていたころの校舎はすべて取り壊されていましたが、マラソン途中にクラスメイトのカップルが蒸発した(?)という都市伝説のあった、その名も「なかよし公園」は健在でした。
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町田市から川崎市の飛び地を抜け、鶴見川沿いに出て、そこからさらに山を越え、横浜川崎市境の尾根を走ること26kmを1時間50分弱で町田から自宅へ帰ったのでした。
町田から東横線沿線に出るには、恩田川~鶴見川と川沿いをゆけば峠はありませんが、こちらは川が蛇行している分、距離はかなり伸びます。
それよりも、尾根筋のアップダウンを利用した方が早く走れるのは、小学生のころから自転車で走り回っていたので経験的に知っているのでした。
電車とバスを乗り継いでも、1時間半は確実にかかるので、運動もできたし、運賃も節約したし、まずまずのペースではないでしょうか。
それから一年経って、一昨日新宿の紀伊国屋書店をのぞいたところ、岩波文庫のコーナーに『神の国』が復刊しているのを発見してしまいました。
でも、かなり安く全5巻を入手できたし、一年間、神の国と地上の国についてあれこれ考えることが出来たし、これも縁だったと思うのでした。
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