オートバイに乗らない殆どの人にとって、ヘルメットはあまり身近なものではないとおもいます。
わたしが子どもの頃、オートバイに乗るのにヘルメットの着用義務はあっても罰則がなかったのです。
・高速道路における二輪車のヘルメット着用義務→1965年から
・最高速度が40kmを超える道路における二輪車のヘルメット着用義務→1972年から
(ともに罰則規定なし)
罰則規定なしということは、義務を怠っても注意だけで済んだということです。
だから、月光仮面(1958年~)はヘルメットなし(ターバンは巻いていたけれど)で公道を堂々とラビット・スクーターで走っていたし、変身前の仮面ライダー(1971年~)もノーヘルで事件現場へ急行するなんてことをやっていたわけです。
もっとも、後者はダブルのスーツにネクタイでオフロードバイクに跨るという、バイク乗りからしたら「ありえないファッション」で多摩の宅地造成地や採石場を走っていたわけですが、これも公道で撮影すると許可が必要なうえにいろいろ制約があったからなのでしょう。
なお、劇中には少年仮面ライダー隊という防犯斥候組織みたいな子ども自転車集団があって、それがまた当時のソビエトにおけるピオネールみたいな恰好で、赤いマフラーをなびかせて自転車で走りまわっているのでした。
いまなら、「アカ」の烙印を押されかねません。
なに、ピオネールって葡萄の品種かって。
それはピオーネでしょう。
ピオネールは当時の共産圏におけるボーイスカウトみたいなものです。
話はさらにそれますが、あの手の番組って爆破シーンがつきものでした。
で、必ずと言っていいほど灰色の煙が四方八方へ飛び散るという絵になりました。
あれは火薬(ダイナマイト)をセメント袋に仕込んで発破をかけるからだそうです。
撮影クルーの中には火薬を専門に扱う職人さんまでいたというから、むかしの映画やテレビの撮影はお金も人手間もたくさんかかっていたようです。
オフロードバイクって、四駆オフローダーやジープがそうであるように、バイクの中ではマイノリティに属するのです。
わたしは「旅」という考えで乗っていましたから気になりませんでしたが、ファッションとして乗る場合格好が悪いと判断されたのでしょう。
けれども真夏にレーサー・レプリカタイプの皮つなぎの前を全開にして、観光地のドライブインでラーメンをすする姿は、どうみても変だと思っておりました。
本当に速く走りたかったら、まずオフロード車にのって基礎をおぼえてからオートバイ・レーサーに転身するというのが王道なのですがね。
自転車にも同じことがいえるのではないでしょうか。
もし、自転車としての特性を知るのなら、子どものころにBMXなどに慣れ親しんでよく転んでおくことだと思うのですよ。
それをブームに乗って、いままでママチャリしか乗ったことがないのに、「本物からはじめよう」なんて言われ、いきなり自転車から服からすべてロードレーサーに変身してしまうというのはどうなのでしょう。
私はブロンプトンを活用していると言ったら、「本当の自転車に乗ろうよ」と言った御仁がおりましたが、道具として使うのであれば、どんな自転車に乗ろうが使い方によりだと思うのです。
ロードレーサー以外は贋物だと思っている人は、「自転車とはタイムを競う乗り物である」という固定観念を捨てた方がいいんじゃないかと感じます。
あ、もちろん自転車競技に打ち込むことは、それはそれで素晴らしいとことじゃないでしょうか。
これはスキーも同じなのですが、仮にタイムを競う競技に入門するにしても、最初に不安定な状態で「ずらす」ということをおぼえたほうがよいのです。
そのうえで、ずれない安定した滑り(走り)をするための最短、最速のライン取りを探さないと、タイムトライアルというものはうまくゆきません。
練習にも幅がなくなってしまいます。
自転車もオートバイもスキーも、子どものころから競技をめざしてやってきた人たちに、後から始めた人はなかなか追いつけないという事実は、そこらへんにあるのではないかと考えています。
ヘルメットに話を戻します。
着用義務がない状況が最後まで残っていたのが原付(51cc未満)でした。
1986年、原付も含めたすべてのオートバイについて、ヘルメット着用が義務化されました。
それまで、長い髪をなびかせて前かごに買い物袋を乗せて颯爽と走っていた女性が、ヘルメットをかぶると髪に跡がつくという理由から敬遠するようになり原付が売れなくなったという話を当時はききました。
しかし、ヘルメットをしないでオードバイに乗り、路上や障害物に頭をぶつけるのは、トマトを思い切り路上に投げるのと同じようなものだという話も同時に噂されていました。
わたしが高校生から大学にかけてはまだ原付はヘルメットなしで乗れたのですが、その時に乗っていたのはスクーターではなく、やはりオフロードバイクでした。
あれで山梨県や長野県まで遠征し、時には崖から転がり落ちていたと思うと、よく五体満足で済んだと思います。
もちろん、長距離ツーリングと山岳林道への往復に、ヘルメットは必須でした。
崖から落ちることもたまにはありましたし(笑)
さて、自転車用のヘルメットですが、その時代は田舎の中学生が通学の際に強制的にかぶらされるものでしかありませんでした。
今のように子ども用のヘルメットなんてありませんでしたから、学校から帰れば小中学生の自転車乗りもノーヘルが当たりまえでした。
それが、風向きが変わったのはここのところ数年、本当に最近のことです。
やはり、自転車のロードレーサーブームがけん引しているのかもしれません。
昔あったサイクルキャップ(前のつばがはね上げるタイプ)やカスクはほとんどみられず、みなヘルメットをかぶっています。
実はスキーやスノーボードでもヘルメットをかぶる人が増えています。
こちらは外国人のスキーヤーやスノーボーダーが増え、彼らが率先して着用しているのに感化されて、増加しているようです。
彼らは大人も子どもも例外なくヘルメットを着用していますから。
しかし私が外国のスキー場に行っていた90年代も、現地でヘルメット着用をしているのはレーサーだけでしたから、ここにきて一般の人たちの間に頭部保護に関する意識が高くなってきているのかもしれません。
実はわたし、自転車のヘルメットってどうしても好きになれなかったのです。
頭に浅草にあるビール泡を載せて走っているようにみえて、あの火の玉のようなデザインが好きになれないというか。
オートバイでも、アメリカンに乗っている人が被るような、つばなしのタイプはどうも恰好が悪く見えていました。
あちらの人のように、顔が小さければ良いのですが、日本人は体格に比して頭の大きな人が多く、ヘルメットの下から顔がはみ出しているような格好になりやすいのです。
(太っている人は特に…)
いわゆるむかしの兜でいう眉庇(まびさし=帽子でいうつばの部分)や錏(しころ=後ろに付いている矢除けのすだれ)があれば、多少はごまかせるのですが。
(女の人が前髪でおでこを隠し、後髪を長くして顎のラインを誤魔化すのといっしょですね)
もちろん、夏はかぶっていたら暑くて蒸れるというので、敬遠したくなります。
帽子なら止まったときにぱっと脱いで団扇代わりにパタパタできますが、ヘルメットはそう簡単に着脱できません。
それに、ブロンプトンの場合、自転車をたたんで電車に乗っている際に、ヘルメットは荷物になってしまいます。
電車の中でヘルメットをかぶったままというのは、たとえばバイクのフルフェイス型ヘルメットをかぶった状態で電車に乗ったらおかしいように、異様だと考えていました。
それで猟銃抱えていたら、まんま銀行強盗ですよ。
くわえて、ヘルメットというものは扱いが難しくて、持っていて落としたりしたらもう使えない(少なくともオートバイ用のものはそういわれていました)という点からも、持ち歩きに向いていないと考えていたのです。
ところが、先日米国人の学生ツアーをする際に、ヘルメットは全員着用させたいという話になりました。
これは、アメリカ在住の友だちからもいわれていたことですが、ウィンタースポーツ同様に、あちらではやはり頭部保護の意識が強くて、ここのところ自転車にノーヘルで乗っている人は皆無に近くなっているのだそうです。
たしかに、私が都内で見かけるあちらからきている「ママチャリダー」も、子ども同様大人もみなヘルメットを着用しています。
面倒くさい・暑苦しいよりも、安全優先なのですね。
そこで今回は私の方で5つ、あちらの方が残りを用意していただいて、参加者は全員がヘルメット着用でツアーに臨みました。
第一印象は、まぁ目立つのなんの。
15台のブロンプトンが列をなしているだけでも目立つのに、みんなヘルメットをしているのですから、余計に目立ちます。
でも、そのおかげで車が道を譲ってくれることが多くなった気がしました。
気になった鉄道への乗車ですが、ブロンプトンにカバーをかぶせてもヘルメットをしているから一目で輪行だとわかります。
でも、車内でヘルメットをかぶった集団が楽しそうにおしゃべりしているというのも、とても健康的だし、安全に配慮したツアーを強調しているようで、身内贔屓を差し引いても好感がもてました。
アメリカ人の若い学生さんたちだからというのもあったかもしれませんが、なんだかとてもクールに見えて、「自分もこれから輪行するときはヘルメットをかぶろうかな」と思った次第です。
振り返ってみれば、いままで日本人でヘルメット着用の方ともご一緒させていただきまして、その時も同じような感想を持ちました。
わたしも旅先でダウンヒルするときは、すすんでヘルメットをしようかなと思っております。