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インバウンドに適したリゾート(3.文化があること―芸術)

文化という言葉は大変範囲が広いので一概にいえませんが、その地域やそこに住む人たち固有の生活様式やその成果であり、特に哲学、芸術、科学、宗教などの精神的活動およびその所産と辞書では定義されています。
そこで、今回はリゾー地における芸術や文学について書いてみたいと思います。
 
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ヨーロッパの古いリゾートなど、劇場やコンサートホールがあって、ホテルなどにはその週から月の催し物案内のコピーが各部屋に配られて、オペラやクラッシックに気軽に接することができるようになっていました。
自分のような長くても3,4日しか滞在しない客でも、立見席であれば当日の鑑賞が可能でした。
ただ向こうに人たちは、最低でも1週間、普通はその倍は同じ街の同じ宿泊施設に滞在していますから、立見席なんて場所にはおらず、身なりをきちんとしてしかるべき仲間と連れ立って来ている様子でした。
 
それを見て思ったのですが、あの人たちは都市に住まって生活しているときでも、お芝居を観たり、コンサート鑑賞したりするために時間とお金を費やす習慣のある人たちなのだろうと思いました。
つまり、「せっかく休暇でリゾートに滞在しているのだから、(普段は出掛けない)クラッシックのコンサートでも聴きにゆくか」という態度で来ているわけではないのです。
(最初はそれでもいいと思いますが、それがきっかけで日常生活の中にコンサート鑑賞という習慣が定着しなければあとが続かないという意味です)
これが、昔流行し失敗した箱物行政の構造です。
地方のリゾート地にいくら立派な劇場やオペラハウス、音楽堂を建て、かつ素晴らしい公演を呼び寄せても、そこに通い続けるお客が存在せねばいずれ衰退してしまいます。
美術館など、時間的な拘束がゆるい芸術施設であれば、リピーターの獲得はやや容易なのでしょうけれど、前もってチケットを予約しなければならない催し物はそれだけ準備が必要な分観客の側にも心のゆとりが必要だと思います。
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それに、文学でも音楽でも、お芝居でも同じことですが、古典や名作と呼ばれるものは時代を経てそれだけ色々な人々に支持され、或いは批判されてきた分、文化的に背負っている背景が深くて重層的です。
ということは、読み手や聞き手、鑑賞する側にもそれなりの教養や感受性が求められるということで、そういう人が定期的に集まる場があれば、そこにまた文化が積み重なってゆくのだと思います。
しかし、日本の観光地にある文化施設は、昔の見世物小屋的な雰囲気から脱し切れていない気がします。
その猥雑さがよいという向きもありますけれど、私はそれが地方のテーマパークが続かない原因だと思っています。
 
なおインバウンドに日本旅行のリピーターとなってもらうという観点から考えると、催し物それ自体の歴史を積み重ねてゆくのか、中身の文化を伝統として積み重ねてゆくのかは、明確に区別しておいた方がよい気がします。
音楽は言葉が不要な分コンサート等万人に受け容れられ易いとは思いますが、日本の伝統音楽はともかく、外国由来の音楽はクラッシックであれジャズやロックであれ、国内の演奏、聴衆人口が多くないと内容を積み重ねるのは時間がかかると思います。
東京にあるリゾートと名のつく集客自慢の某テーマパークでも、そこに働く人たちの文化は集積されても、そこで遊ぶ人たちすなわち入場者側の文化は積み重ならないのと同じです。
そして演劇やお芝居ですが、日本の古典芸能や戯曲、雅楽であれば、それまでの歴史が長い分、演者が代わっても伝統は受け継がれ、場所と内容が結びつきやすいと思います。
福島県南会津の桧枝岐村には田舎歌舞伎の伝統がありますが、素人が演者なのに270年以上の伝統をもっています。
ただ、お芝居は言葉の問題があって、英語での解説が必要です。
ブロードウェイのミュージカルを見る前に、日本語の同じ題目を見ておいた方がよかったと思ったこと、私はあります。
 
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インバウンドという観点から見ると、文学はちょっと厳しいように思えます。
日本語会話が達者な旅行者は増えているものの、文章を読むとなると(漢字の問題もあって)かなり敷居が高くなりますから。
日本人にとっても、外国語について会話するのと読み書きするのでは格段にレベルが違うと思います。
アニメショップや漫画専門店、高尾山に行く外国人はたくさんいても、青梅にある吉川英治記念館へゆく外国人旅行者は殆どいませんよね。
吉川作品にみられるテンポが良くて韻を踏んだ文章って美しいと思うのです。
しかし、あのような長編小説は日本人ですら本を読み慣れないと完読するのは難しいと思います。
それでも、自分みたいに翻訳作業をしていると、日本語の漢字仮名交じり文をルーツに持つ和漢混交文は、アルファベットのような表音文字で著される文章や、表語文字だけの中国語とは違う、独特の魅力があるように思えてならないのです。
 
いま、日本語を母語としない外国人宿泊客の多く泊まるホテルでは、リゾートとしての対応で読書スペースを設けている施設が結構あります。
そういう場所に置いてある本は、英語の日本紀行やガイドブック、写真集や画集が中心です。
そこに、日本語の魅力を紹介するために、子ども向けの民話や絵本の名作を加えてみたらどうでしょう。
多摩の宿泊施設なら「雪女」(原作地は青梅です)とか、富士山麓なら「ダイダラボッチ」とか。
絵本だって誰もが知っている「泣いた赤鬼」(鬼=渡来人という説があるから外国人と無縁ではありません)、「かさじぞう」「百万回生きた猫」などを置き、夜に読み聞かせならぬ紙芝居や寸劇を従業員がやるというのはどうでしょう。
ああいう話は、大人が聞いても旅の土産話になりますし、自分も外国で触れた小話や民話って意外と頭に残っているものですから。
 
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次回は文化面のうち、遺跡や宗教について書こうと思います。

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