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Channel: 旅はブロンプトンをつれて
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布引観音(長野県小諸市)

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布引観音は小諸駅の西およそ2㎞、千曲川の左岸(駅や国道、懐古園とは川をはさんで反対側)にあります。
駅からゆくと、河岸段丘をくだって川を渡る形になるのですが、このあたりの段丘崖は切り立っており、もし自転車で行ったら行きはよいよい帰りは…になりそうな場所です。
しかし、大正から昭和の初めにかけて布引電気鉄道という国鉄と同じ軌間の鉄道が走っており、その廃線跡が道になっているそうなので、そこをたどれば比較的楽に小諸駅へ戻れるのかもしないと思いました。
しかし、その方法では千曲川に橋が架かっておらず、川の手前で行き止まりになってしまいます。
そこで小諸駅前から北国街道を西へ向かい、国道18号線の押出入口信号まで行ってから左折して布引大橋を渡るのがいちばんスムーズだと思います。
この時は小雨のぱらつくあいにくの天気でしたので、車で立ち寄ってまいりました。

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(あんな高いところまで登るのです)
 
信州の民話に「牛に引かれて善光寺参り」というお話があります。
ある信仰心の薄いお婆さんが千曲川に布をさらしていると、一頭の牛があらわれてその布を角にかけて走り出しました。
驚いたおばあさんがその牛を追いかけると、善光寺の金堂付近まできてやっと追いついたものの、布と牛は忽然と消えてしまいました。
途方に暮れていると、夕刻に一条の光が差し、その神々しさに思わず跪いて祈り、金堂にこもって自分の罪悪を詫び、翌日家に帰りました。
そののちのある日のこと、ふと布引山を見上げると、岩の角にかつて牛に奪われた布が引っかかっているのが目に入りました。
お婆さんはなんとか取り戻したいと思うのですが、断崖に架かっているため手が出せません。
そこで一心不乱に念じていると、布とともに岩と化してしまいました。
今でも布引山の断崖には白い布の形をした岩を認められるというものです。

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(善光寺まで続いているといわれる岩穴)
 
私がむかし本で読んだのは物語の前半だけであり、自分の強欲を悔いた老婆が善光寺から戻って見違えるほどに人が変わったというハッピーエンドで締めくくられていたのですが、ここのご由緒書きによるとまた欲のかたまりに戻ってしまったような話になっています。
或いは観音菩薩は大慈大悲を本誓としていますから、おばあさんは牛に化けた観音菩薩に教化されたまま岩になってしまったのかもしれません。
信濃の四大伝説ってこの話のほかに、紅葉伝説(戸隠・鬼無里)、姨捨伝説(冠着山)、黒姫伝説(黒姫山)でしょうか。
みんな女性と山が関係しているような気がするのですが。
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(山門前。少しだけ色づいていました)
 
さてそれでは早速登ってみましょう。
川沿いの駐車場はうっかりすると見過ごしてしまいそうな崖下のひっそりとした場所にあります。
この場所が標高546mで、観音堂のある場所が655mですから、標高差100m以上を登るわけです。
取りつき始めてまもなく、ヘビがいたので引き返してきたという観光グループと出会いました。
なるほど、段丘にできた裂け目の谷間は木が鬱蒼としていて、岩間からの清水が地面を湿らせていて、いかにもヘビが好んで住みそうな場所です。
しかし、たしか日本においてヘビは豊穣の神さまとして信仰の対象になっていたと思います。
きっとネズミなどを捕食するから益獣という一面があったのでしょうけれど。

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(釈尊寺本堂)
 
登りの途中で牛岩や善光寺とつながっているといわれている穴など、布引伝説にちなんだものを観ながらえっちらおっちらとゆきます。
山門まで到達すると、ずっと上に朱塗りの観音堂が見えています。
ここまででもヒーヒーいっているのに、あそこまで登るんかいと気落ちしそうになります。
なお、山門をくぐって観音堂へ直登する階段は、あまりの急傾斜につき立ち入り禁止になっています。
たしかにザイルとヘルメットが必要かもしれません。
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(本堂から見る観音堂。向こうは浅間山です)
 
う回路をのぼってゆくと、天台宗の釈尊寺に到着です。
あれ、裏手に車がとまっています。
ということは、山の上から道が通じているということで、迂回して段丘上へのぼることができれば、ブロンプトンでここまで来ることができるわけではありませんか。
家へ帰って調べたのですが、小諸市内のバスのうち、千曲川を越える路線はほぼ会員予約制の乗り合いタクシー(市民とその家族が利用できる)に転換されています。
少し遠回りですが、しなの鉄道田中駅から久保通線、御牧原線とバスを乗り継いで御牧原保育園で下車をして丘を越えてゆくのが一番楽そうです。
また佐久平駅から県道44号線を西進し、布施川を渡った先から北へ転進したほうが、小諸から川を渡って正面きって登るよりも楽かもしれません。
もっともこんな遠回りをするくらいなら段丘のとりつき道路をがんばって押して歩いたほうが時間的には早いと思います。

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なぜこんなことを考えるかというと、ブロンプトンで札所めぐりができないかと考えておりまして、折りたたみ自転車で巡るなら相応の戦略が必要だと考えているのです。
西国三十三か所や四国八十八か所巡りに代表される、札所・霊場巡りの巡礼の旅は、今でこそタクシーやバスで巡る人もいますが、「自分の脚で歩く」のが基本だそうです。
ならば、江戸から京まで歩きとおし、ブロンプトンでも走り通したわが身なれば、歩くことと、折りたたみ自転車を使うことは基本的に同じなので、「公共交通機関を使わないで札所めぐり」を尺取虫方式(家と中断地点までは公共交通機関を認める)というルールで行ったら、ちょうどよいのではないかと思ったからです。

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(高所恐怖症の方は下を見るのをやめましょう)

さて本堂にお参りを済ませて観音堂に向かいます。
ほぼ断崖を削った道でもって斜面をトラバースして、素掘りのトンネルなどを、腰をかがめながら通過します。
途中閻魔大王や脱衣婆の石像があって、ちょっと雰囲気が怪しくなってまいります。
そして朱塗りの断崖絶壁に設けられた観音堂(国の重要文化財)に到着です。
中に足を踏み入れると、ヒィー二重に怖い。
まず足元の板の隙間から下が見えておりますがな。
いわゆる舞台から身を乗り出してみますと、落ちたら即死の高さです。
これ、床板大丈夫かなぁ。
そして観音様を祀っている洞穴は暗くて中がよく見えないのですが、その前に印を結んだお坊さまの座像があって、こっちの方が即身仏みたいで怖いのです。
むかし来たときはもっとカラッとした雰囲気だったのですが、今回は天気のせいもあるのか、やたらとオカルトチックなムードなのでした。
ああ、やはり観音霊場なのですから、「般若心経」の冒頭でも唱えて考えてみましょうか。
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(はい、普段の強欲ぶりを悔いております)

「かんじーざいぼーさったー、ぎょうじんはんにゃーはーらみったーじ、
しょうけんごーうんかいくう、どーいっさいくーやく」っと。
『観自在菩薩 深般若波羅密多を行する時、五蘊(ごうん)は皆空なりと照見(しょうげん)して、一切の苦厄(くやく)を度したもう。』
「観音さまが深妙なる仏の智慧を実践された際、一切のものはみな空であると看破され、すべての苦しみや厄災から救われると悟られた」
ということは、やはり岩になったとされる老婆は観音様の功徳によって、「布を取り戻したい」という思いから解き放たれ、救われているのだと信じたいです。
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