これまでブロンプトンを使った旅として、旧東海道の旅の他に、地形を使った小旅行を紹介して参りました。
神田川に沿って遡ったり、峠をバスと自転車を併用して越えたり、富士山からダウンヒルしたりと、その機動力を利用した活用術を実験してきました。
そして、もう一つくらい系統的にブロンプトンをつれて巡るテーマがあったらいいのにと考えてきました。
旧東海道を尺取虫方式で進む際に気がついたのですが、旧東海道はおよその部分がJR東海道本線に沿っています。
東海道本線が一部区間を除いて東海道に沿って敷設されたのですから、当たり前ではあるのですが。
たとえば、下図を見てもらえればお分りと思いますが、旧東海道で日本橋から小田原までの宿場は、すべて東海道本線に同名の駅が存在しています。
明治のころ、宿場が鉄道を受け入れるかどうかで、その後の街の盛衰に大きな影響を及ぼしたというのは、有名な話ですよね。
日本橋からはじめて、いま静岡県の西部まで来ていますが、これまでの区間に限れば、旧東海道がJR東海道本線と離れたのは、戸塚藤沢間の台地上、箱根、宇津ノ谷峠、牧之原台地など、すべて地形が関係しています。
このうち、箱根については古東海道の足柄道に旧東海道本線である御殿場線が沿っていますが、丹那トンネルの開通と同時に、本線の役目を終えています。
つまり、当時の技術でトンネルが掘れなかったとか、地質上線路を通すには堅固な地盤が得られないなど、土木工学上の理由が大きいのです。
普段利用することの多い東海道新幹線について、車両のスピードと安全性や運行技術、サービスなど目に見えるものに関心が集まりがちですが、実は土木技術の進歩が大きいのです。
戦前の弾丸列車計画が実現した1964年以降でも、技術は日進月歩です。
たとえば、開業当時の技術では、鈴鹿峠にトンネルを掘ることができず、名古屋から先は関ケ原越えの中山道沿い(これは名神高速道路も同じ)になってしまい、冬に降雪するたびに遅延を招いていましたが、今の技術なら確実に旧東海道に沿って建設できるといわれています。
その辺のことに興味のある方は、次の本を読み比べてみると面白いかもしれません。
東海道新幹線 角本良平 中公新書 1964年
新幹線50年の技術史 曽根悟著 ブルーバックス 2014年
要するに、技術が進歩するほどにトンネルを掘ったり橋梁を架橋したりして線路の勾配を少なくすることが可能なのです。
しかし、古い時代に開設された鉄道ほど技術と予算の兼ね合いが厳しかったわけで、敷設ルートも最短距離を望みながらも地形・地質調査したうえで、勾配の緩い、短いトンネルで尾根をくぐり、なるべく短い橋梁で川を渡る線路を敷設するようにしました。
なんでそんなことをしたのかというと、なるべくアップダウンが少ない方が、営業して走る列車のエネルギー効率が良くなるからです。
ただし、ルート上にある街の思惑や、地域の産業界、議員さんたちの算盤勘定が影響するというのは、今も昔も変わらないようで。
さて、鉄道敷設の時代に話を戻します。
その頃は、街や集落は街道沿いに、あるいは水路沿いに展開していたといいます。
なにせ、陸運は街道、内陸の水運は大河川が物流の動脈でしたから。
そして、陸路については、今のように誰もが安価に内燃機関(車のことです)を所有できませんから、大概は人力か牛馬を使って押し曳きする車両が活躍していたのです。
そうした車は、やはりアップダウンの激しい道が苦手なので、なるべく地形に沿った、楽に上り下りのし易い道を使用します。
だから、古い街道もまた、古い鉄道と同じく、なるべく勾配の緩慢な箇所を選んで設けられているのです。
そうしたことを頭に入れたうえで都心から放射状に出入りするネットワークをもっている在京鉄道会社の路線図をよく見てみると、殆どの通勤鉄道路線は、なにがしかの古い街道に沿っていることがわかります。
これらの路線に沿った古くからの道は、その後モータリゼーションの洗礼を受け、マイカーの増加とともに、新道やバイパスが建設され、取り残されたように残っています。
東海道も同じことですが、新たにつくられた国道やバイパスは、動力の付いた車両の通行が前提で設計されたうえに、交通量も多くて危険だし、人力の乗り物である自転車、特に小径車には合いません。
(長距離の徒歩移動も同じですよ)
逆をいえば、鉄道路線に沿っている古い道こそ、ブロンプトンにぴったりの道ということになります。
(名鉄線 国府駅付近)
なお、鉄道の路線沿いにブロンプトンで走るメリットをまとめると、以下のようになります。
・前述のように、古くからの道は勾配が穏やかで交通量も少なく、安全に走ることができる。
・戦前からの鉄道沿線は、古くからの道に並行しているため、古い町並みや名所旧跡が多い
・近郊路線であればいつでも駅から電車に乗って帰宅でき、関東圏の郊外へ散歩に出る分にはお金もたいしてかからず、旧東海道の旅よりずっと気軽に尺取り虫方式の旅が可能。
・次の機会にその先を走る場合も、前回切り上げた場所まで電車を利用できる。
・沿線に沿って走れば街に商店が多いので自転車店も多く、修理などに対応しやすい。
・駅ごとに商店街があり、食事場所を探すのも楽しい。
・疲労や天候その他の事由で中断する際も、最寄りの駅から乗車することができる。
実際に、何らかの影響で電車が止まってしまったとき、運転再開までの時間を利用して、先へ先へと自転車で進むことがあります。
そういうときに、普段からその沿線を走るようにしていれば、電車が動いたなと思ったら、次の駅から乗車できます。
近隣の沿線を併せて走ることで、交通機関がストップした時の代替ルートの研究にもなります。
さらに、通勤などに使えば頭と体のトレーニングにもなります。
ただ漫然と走るのではなく、どこで下車してどこから乗車したら経済的にも時間的にも体力的にも有利なのかを計算しながら走るのです。
例えば、経路が複数の会社線に跨るときは、その境目の駅まで走ってゆくとか、通勤時間帯でも、混雑する区間のみをブロンプトンで走り、乗換などで人々がどっと下車する駅まで走って、そこから乗り込むとか。
ということで、今後「○○沿線にブロンプトンをつれて」というタイトルでシリーズを試してみます。
まずは、地元でもある東急東横線で渋谷から元町・中華街までを走るルートについて検討してみたいと思います。