(長楽寺の寺領四十八枚田の下部にて 田の中に佇む石仏と、田植えを待つ稲の苗)
姨捨山のシリーズは、棚田の探索に移ります。
実際に夜に来て棚田に映る月の写真が撮れるかどうかを確認するため、昼間のうちに棚田の道を走りつくしてしまおうと決めました。
その前に、姨捨観光会館で腹ごしらえをしました。
食べたのはくるみ蕎麦です。
実はここからほど近い東御市(前にワイナリーを訪ねた場所です)は、くるみの生産量が全国一なのです。
東御市と千曲市の間にある、上田市の別所温泉に近い前山寺はくるみおはぎで有名です。
お蕎麦は濃厚なつゆと、こしの強い蕎麦のハーモニーが絶妙でした。
では、棚田へ参りましょう。
まず、棚田そのものについてですが、同じ棚田でも二種類あります。
ひとつはほぼ四角形をしている、機械を使用して造成された棚田です。
戦後に造られた比較的新しい棚田とでも申しましょうか。
もうひとつは、自然の地形に沿って畦をきられている、昔からの棚田です。
こちらが、お目当ての棚田になります。
前者は農道がまっすぐ敷かれているのに対し、後者のそれは地形にあわせてくねくねと不規則に曲がっています。
もちろん、軽トラックが1台やっと通れる幅しかなく、道によってはもの凄い急坂のため、一般の自動車は立ち入りも駐停車も認められていません。
こちらの棚田を味わうのなら、徒歩か自転車に限るのです。
なお、今回写真を撮るにあたって、全て道路とその縁から撮るように心がけました。
撮影のために、棚田の奥の畦へと足を踏み入れるのは、マナー違反です。
どうしても良い写真が撮りたい方は、三脚と換えのレンズは必須だと思います。
また、たとえ自転車でも、農作業している人や車が最優先だということも、忘れないようにしたいと思いました。
どんな場合でも、旅人はそこで生活している人を尊重しなければなりませんよね。
なお、今回写真を撮るにあたって、全て道路とその縁から撮るように心がけました。
撮影のために、棚田の奥の畦へと足を踏み入れるのは、マナー違反です。
どうしても良い写真が撮りたい方は、三脚と換えのレンズは必須だと思います。
また、たとえ自転車でも、農作業している人や車が最優先だということも、忘れないようにしたいと思いました。
どんな場合でも、旅人はそこで生活している人を尊重しなければなりませんよね。
一部に水の入っていない田もありましたが、こちらは休耕田のようです。
どうも立札から推察するに、この棚田はたくさんのサポーターやボランティアによって支えられているようです。
皆が力を合わせて、お金を出し合って、この景観を維持しているわけですね。
保全団体は名勝姨捨棚田倶楽部といって、ブログは下記の通りです。
(http://loveobaste.at.webry.info/)
千曲市の観光協会でも受け付けているみたいなので、こんな素晴らしい景色のもとで農作業を手伝ってみたいという方は、ぜひ挑戦してみてください。
お米の好きな日本人なら、裸足で入る水田の心地よさを体験してみるのも良いものです。
再び棚田の観察に戻ります。
一口に山の斜面といっても、一枚の板を傾けたような斜面というものは、まずありません。
小さな畝や支尾根が張っていて、その間には小さな沢や谷が筋をなしています。
そこを地形に沿って棚田の畦をつくるわけですから、曲がりくねった壁が段々に連続するという形になります。
ちょうど鍾乳洞の中で自然に形成された鍾乳石によるリムストーンプールを想像していただければと思います。
もちろん、水を上手に上の田から順に下の田へと落としてゆくという計算がなされたうえで、水路も山を下っています。
この造形を人間が何代にもわたって補修しながら使用してきたのが棚田なのです。
(左の写真、田を水平にすると右の写真になります。どれほどの急斜面かおわかりいただけるでしょうか)
一枚の田が大雨や地震などによって崩れてしまうと、そのまま下の田に影響を及ぼします。
だから、普通の田んぼよりもはるかに維持と保守に手間がかかります。
大変なのは維持だけではありません。それぞれの田は地形にあわせて区切られているため、一枚として同じ形、同じ大きさの田は存在せず、田植えや収穫の機械化にもおのずと限界があります。
もちろん、水入れから田植え、草取り、収穫まで、作業のたびに山の斜面を昇り降りせねばならず、普通の田とはかける労力にもおのずと差が出ます。
ではなぜ、そこまで非合理的で生産効率の悪い棚田を保存しようとするのでしょうか。
日本棚田ネットワークのホームページには、およそ次のようなことが書かれています。
ひとつには、手間ひまをかける分、おいしいお米ができるのだそうです。
平地の水田に比べて昼夜の温度差が大きいので、稲がより時間をかけて熟成されます。
また、山の水源から近いので、水がきれいなうえに、微量元素を多く含んでいるそうです。
いわゆるミネラルたっぷりというやつですね。
さらに、刈り取った後の稲の機械乾燥ができないため、山の斜面にはさ掛け(天日乾燥)された籾が、程よく乾燥するのだそうです。
たまにスキー場のリフトで稲束を乾燥させているニュースを見ますが、まさにそのままであの状態なわけです。
どうでしょう、きいただけで美味しそうではありませんか。
さらに、棚田は水源涵養林と同じ役割を果たしているのだそうです。
つまり、山の斜面における保水機能を担っているということです。
山の斜面を横切る水路を幾筋も設けることによって、田の下に地下水を多く蓄え、その水が地中をゆっくりと通過して河川へ下っているのです。
ということは、あの斜面に設けられた人の背丈より高いリム(棚田を支える縁の壁)は、小さなダムが積み重なって、大きなダムの役割を成しているということになります。
日本全国の棚田面積の洪水調節機能は、黒部ダムの有効貯水量のほぼ4倍だそうです。
立木が一本もない棚田の風景は、一見すると法面の崩壊を招きやすいのではないかと思えるのですが、人が絶えず手を入れることによって、食糧生産を兼ねて山を守っているわけです。
さらに、平地の田のようにコンクリート製の近代用水路をつくることができないため、棚田の水路は昔から田んぼで人間とともに生活してきたカエルや水生昆虫、小魚などの生態系をそのまま残しているのだそうです。
そして、写真通りの景観です。
棚田へきて改めて気付きますが、山の斜面に立木が無いために見通しが効き、やたらと景色が良いのです。
そして、こうした背景を理解したうえで、こぽこぽと音を立てながら田から田へと落ちてゆく水音に、ケロケロとそこかしこで鳴いているカエルの大合唱、山の斜面を吹き渡る風の音を聴きながら、はるか下方に広がる善光寺平を眺めていると、涙がこぼれそうになってきます。
おそらくここは、現在棚田を保全されている人たち、受け継いで守ってきた人たち、ここで暮らす動植物すべてが、人智を超えて調和している天国なのでしょう。
そう考えると、植えられたばかりの稲も、これから田植えを待つ田に浮かんだ苗も、なんだかとても貴いものに思えてきました。
そして四季折々の表情を見てみたいと思うようになりました。
棚田って、日本におけるアグリ・ツーリズムの代表格だと思います。
今回は映る月を求めて来ましたが、これをブロンプトンで楽しまない手はないと思いました。
以前ご紹介した東御市のワイナリーとともに、ぜひエコツーリズムをやってみたいと思います。
千曲市の循環バスを使用して、斜面をのぼっては下りを繰り返しながら、自転車で登る道も探してみました。
ひとつは名月号のルートが、大変ではありますが何とか自転車で漕いでのぼれるレベルだと分かりました。
もう一つは昔からの棚田を東に大きく迂回するルートです。
夏はちょっと大変かもしれませんが、季節が良ければ棚田の中の道を、えっちらおっちら自転車でのぼることができるのではないでしょうか。
それから、自分がウロウロしている最中に、何人かの三脚と一眼レフを抱えた方たちとすれ違いました。
どうやら昼間から撮影ポイントを探してらっしゃるようです。
棚田の長楽寺寄りに姥石苑という休憩所があるのですが、そちらではなく、もっと東にある「月見荘」(なんて洒落た名前なのでしょ)という個人の別荘の東側、三本の樹が並んでいる前あたりの路上に、複数の三脚が並んでいました。
行ってみるとなるほど、棚田を側面のやや上側から見下ろす格好になり、棚田の縁の向こうは善光寺平という構図です。
あとで夕方に来てみようと思いながら、そろそろ時間がきているので田毎の月のロケハンを終え、JRの稲荷山駅へ向かって走り出しました。
次回は当初の計画通り、稲荷山駅から聖高原駅までJR篠ノ井線に乗り、そこから麻積村のバスを利用して、聖湖、猿ケ馬場峠へとのぼり、姨捨山に連なる稜線上から棚田へとダウンヒルにかかります。