渋谷方面から東横線に乗って来ると、この駅間はすべて下り坂になります。
多摩川の河岸段丘をおりるという形になるからです。
で、この河岸段丘というのは、川の大きさに比例して規模も大きかったりするわけで、これまで越えてきた目黒川や呑川と比べると、山の高さ、谷の深さと複雑さなどについて格段にスケールが大きいのです。
当然長く急な勾配坂が多いことになります。
下るだけなら別に急こう配でも構わないのですが、自転車の場合のぼりとなるとできるだけ楽な道を選びたくなります。
自分のように沿線住民でしょっちゅう東横線に沿ってブロンプトンを往き来する場合、下りと上りでは道を変えています。
例えば、田園調布駅から多摩川駅へ下るような場合は、東横線の西側の谷間を下りますが、逆に丸子橋で多摩川を渡って自由が丘方面へ抜ける場合は、数百メートルだけ中原街道の歩道(自転車通行帯あり)をのぼって、東横線の東側を大きく迂回し、邸宅街を抜けて奥沢駅前の踏切へと出るようにしています。
(このように、上りと下りではルートを変えます。駅の西側の方が東側に比べて地形が険しい様子が分かります)ということで、今回は下りの方をご紹介しましょう。
しかし、黒川七ッ谷のところで説明したように、下るにしてもなるべく緩くて位置エネルギーを有効に使えるような坂を選んだ方が、小径車のようなのんびり走ることを旨とする自転車を選んだ場合は楽しいのも事実です。
そこで、やや遠回りにはなるものの、あちこちを冷やかしながらゆるゆると下り、たとえ逆走して坂をのぼることになっても、押し歩きせずに登れるような道を選んでいます。
(田園調布の住宅街にある古い本屋さん)いよいよこれから坂を下るという交差点にて右の路地に入り、尾根上の道をすすむと玉川浄水場(35.600250, 139.662084)脇をかすめます。
東京都区部で地形を読むときは、この浄水場の位置も参考になります。
浄水場というものは、そこから水を落とす関係上、その区域で一番高い場所にあることが多いのです。
つまり浄水場の付近からの道は、オール下り坂になる傾向が強いのです。
ただし、神田川沿いにあった淀橋浄水場のように、目的が違う施設の場合は高地にあるとは限りません。
(一気に坂を下りるのではなく、ジグザグにおりてゆきます)しばらく道なりにすすみます。
玉川田園調布一丁目信号から660m尾根上の道を走り、多摩川台駐在所(35.595696, 139.660947)の前に出ます。
なんと、田園調布の住宅街に駐在所があるのですね。
派出所は住居を兼ねていませんが、駐在所は文字通り駐在さんが家族とともに住んでいるということになります。
この辺り、財界や政治家など偉い方のお宅もあるので、もしかしたら駐在してもらった方が安心なのかもしれません。
そこから住宅街の斜面をジグザグに道をとって坂を下ってゆきます。
見通しは悪いのですが、のぼる場合は山の斜面をトラバースする要領で、このように住宅街の道を段々に走った方が、断然のぼりやすいのです。
(蓬莱公園。斜面になっています。子ども向けの遊具はなく、昔の環境を残すようにしています)蓬莱公園の前に出たら右折して多摩川駅方面へ向かいます。
これが玉川田園調布一丁目信号からそのまま坂を下ってきた谷間の道にあたります。
蓬莱公園(35.594588, 139.664155)は大正時代にこの場所が分譲されたとき、かつての面影を残そうと町会が広場として残しておいた場所を、昭和になって大田区に寄附して開園した公園です。
田園調布が分譲される以前はこのような場所だったという雰囲気を色濃く残しているので、立ち寄って昔を偲んでみると面白いと思います。
(電車の車窓からも良く見える、カトリック田園調布教会)さて、谷間の道を下ってゆくと、急に道が広くなる場所に出ます。
進行方向左手の山の上を見上げると、大きな教会が目に入ると思います。
これがカトリック田園調布教会(35.591124, 139.667288)です。
1930年にフランシスコ会の神父様が住み始めたのがきっかけで、数年で信徒数が400人ちかくを数える大きな教会に発展したそうです。
しかし、太平洋戦争中は警察に接収され、枢軸国であるイタリア大使館員の軟禁場所として使われました。
その間、敵国人とされた外国人司祭は全員帰国させられ、教会の活動は田園調布駅前の日本人信徒宅で行われたそうです。
戦後は元の場所に戻り、信徒数も増えて東京のカトリック教会の中では3番目に規模の大きな教会になっています。
フランシスコ会の教会ですから、門を入った聖堂の前には「アッシジのフランチェスコ」の像があります。
(どりこの坂)教会のふもと、東横線の線路の下をくぐって正面に見えるのがどりこの坂(35.590888, 139.669788)です。
「どりこ」の坂ではなく、「どりこの坂」といいます。
これはこの坂の頂上近くの北側に、「どりこの」と呼ばれる滋養強壮飲料の工場があったからと言われています。
このどりこのという飲料ですが、疲労回復について研究してい高橋孝太郎博士が発明しました。
昭和の初めに講談社がスポンサーになって大々的なキャンペーンをうって、カルピスのような全国的に有名な飲料だったそうです。
見かけは炭酸の入っていないオロナミンCみたいなものらしく、味は甘酸っぱくて濃厚なため、カルピス同様に水で薄めて飲んでいたのだとか。
こちらも戦中の製造中止を挟んで戦後に発明者の元で復活しましたが、製造方法は非公開で博士の死とともに関係書類は処分されたため、復刻のかなわない伝説の飲料となってしまったそうです。
さて、東横線の下を再びくぐって元の道に戻りましょう。
カトリック教会の下から多摩川駅までは80mほどですが日曜日は歩行者天国になり、日によってはフリーマーケットなども行われます。
次回は多摩川駅周辺をご案内します。