宿場間の距離ランキングを挟んでしまったので、旅の方も足踏みしていましたが、今回は赤坂宿についてご紹介したいと思います。
松並木を挟んで御油宿とわずかに1.7㎞西に存在する赤坂宿は、同じ名前の赤坂という宿場が中山道にも存在するため、あちらを美濃赤坂宿と呼んで区別したそうです。
東京に住む現代人にとって、赤坂といえば港区の某放送局のある赤坂しか思い浮かばないのですが。
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(喜多さんが縛られたという松並木)Clik here to view.

東海道中膝栗毛では赤坂宿へ先行した喜多さんを追って、ようやく御油宿のうるさい客引きから逃れた弥二さんの失敗談が書かれています。
「この先の松並木には狐が出て旅人を化かす」という留女の脅し文句を真に受けて、到着が遅いからと引き返して迎えに来た喜多さんを「さては化け狐だな」と勘違いして松の木に縛り上げてしまうのです。
でも、この話は他人事ではありません。
旅に出るということはそれだけですでに疑心暗鬼に陥りやすい心情になっているわけで、日常の生活圏では落ち着いて、決して詐欺にあわないような人が、旅に出るところっと引っかかってしまうなどということはよくあるのです。
トラベラーズ・フィアーとでも申しましょうか。
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(江戸側の入口から赤坂宿を望む)Clik here to view.

たとえば、旅先で携帯電話に「今あなたの家から出火しています。消火作業をするのでオートロックの解除方法を教えてください」なんて迫真の演技とパチパチ燃える音をBGMに言われたら、大抵の人は焦って「この電話番号をどうやって知ったのか」などと質問できないのではないでしょうか。
そこまで大げさではなくても、家を出て駅まで来てからエアコンのスイッチを切ったか、家の鍵をちゃんとかけたか心配になる人はたくさんいらっしゃるとおもいます。
ひとつの軽度な強迫観念で、わたしもしょっちゅう不安になっています。
そんなときに、近所に離れて住んでいる家族を名乗る電話があって、「鍵の在処を教えてくれれば、代わりにかけておいてあげるよ」なんて言われたら、騙されてしまう人、けっこういると思いますよ。
まだそんな「旅行者を狙ったオレオレ詐欺」の話をきいたことがありませんが、旅に出たら不安を手放し、今の自己を確認する訓練だと思って、身の回りを見渡してみましょう。
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これとは逆に、旅行に出たら興奮して高揚してしまう人も多くいらっしゃいます。
こちらは、トラベラーズ・ハイとでも呼びましょうか。
とにかく、旅先では見るもの聞くもの珍しいものばかり。
だから家で食べたらどうってこともないインスタント食品が美味しく感じたり、ほんのわずかな他人の親切にうるっときたりします。
とくに文化も風習も違う外国へ出たときには要注意です。
また、旅とスポーツが組み合わさったものであれば、余計にそう感じるものです。
スキーやスノボにしろ、ダイビングやサーフィンにしろ、大した腕前でもないのに自分よりちょっと手馴れているだけで、「この人は山や海で頼りになる人だ」って思われます。
それが異性間では恋になるから、若い人たちは冬の雪山や夏の海にわざわざグループで出かけて行くわけでしょう。
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(格子戸の中にはバブル時代の車が…でもこれどうやって車から出入りするのでしょう)Clik here to view.

浪馬も添乗員をやっていたときには、ツアー客からやたら頼もしい人みたいに勘違いをされました。
(添乗員が本職ではなく、ただのお手伝いなのですがね)
それ以前の学生時代に冬にスキーをやっている際は、プライベートではかなりみすぼらしい恰好をわざとして地元の人間のふりをしていましたし、夏にホテルのプールで監視員をしているときは、たいしたことない容姿にもかかわらず、やたらとお声をお掛けいただきました。
ああ、今もたくさんの方からブロンプトンについてお声をかけていただいております(笑)。
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ただこの話は、旅先では落ち着いている部分を持ちましょうというだけで、わざと感情を圧し殺してクールを装ってくださいという趣旨ではありません。
本当にその人の信頼度が分るのは、偶発的な事態に遭遇した時です。
そうした場合、プロは焦りながらもどこかで計算をしているものです。
旅慣れた人というのは、そういう場に幾度も出くわしていますから、経験として処方をたくさん持っているのです。
逆をいえばそういう人は、影でたくさん失敗をしているから経験が活きるわけです。
困りながらもそれをどこかで楽しんでいる節があったりします。
平素から「自分はしくじったことがない」なんて冷静自慢する人は、逆に怪しんでよいと思います。
旅の現場では出たとこ勝負ですから、日常では成功も失敗も、いちいち自慢する必要ありませんからね。
あっ、このブログは自分への備簿としてわざと書いています。
現在でも、ブロンプトンをつれてあちこち出掛けて、ここはこうすれば良かったとか、あそこではさっさと決断を下せばよかったと反省することしきりです。
でも、経験が豊富になるぶん、自信がつきますし、おかげさまでブログネタにも困りません。
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(昔の旅籠は夜になるとこんな感じで、ぴったりと戸を閉めていたそうです)Clik here to view.

広重の赤坂宿は、彼のシリーズ作風には珍しく、風景画ではありません。
宿の軒上から中庭のソテツの樹越しに、旅籠の夕方の様子を描くという面白い構図になっています。
この絵、よくみると左から時系列のように並んでいます。
順番に説明すると、ひと風呂浴びた客が戻ろうとする居間には、すでに入浴を済ませて横臥しながら煙管を楽しむ客の姿が見えます。
その客に「夕食がご用意できました」と膳を運ぶとなりで、「ひと揉みいかがでしょう?」とご用伺いをする按摩さん。
部屋の隅、行灯の上に掛けられた手ぬぐいには、ちゃっかり広重が自己宣伝しています。
その向こうには、ご用提灯を傍らにいま到着したのか、わらじを脱ぐ人の背だけが見えます。
これは公用の書状を宿間で受け渡しする継飛脚という役目の飛脚で、公の仕事から、きっと普通の旅人よりも到着が遅かったものと思われます。
その向こうに、急な階段を二階から降りてくる客の足だけが見えています。
蘇鉄と灯篭を挟んだ奥の部屋では、招婦と呼ばれた飯盛女が忙しそうに化粧をしながら、宿の女中と会話しています。
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公娼制度があったので、当初は規律を重んじていた幕府も、遊郭のない地域や、宿場の財政がひっ迫していたことから、宿1軒につき何人という規制をかけたうえで、私娼を黙認していました。
次回にも書きますが、この時代の売買春を価値観の違う現在の感覚ではさばけません。
彼女たちは、宿場の重要な稼ぎ頭であったと想像します。
そして灯火のないこの時代、旅籠などでも行灯の火が消えたら、芯は付け替えてもらえず、朝に鶏が鳴くまでひたすら寝るしかなかったのです。
現代のように、居間で語らったり、読書したり、テレビを見たりすることのない生活を想像しながら、宿場の客間を眺めていると、男女の営みも現代のように余計な意味を持たない分、より純粋なものであったと思うのです。
ああ、今回は旅での心情ばかり話してしまいました。
次回はちゃんと宿場内をご案内しようと思います。
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(8年くらい前の大橋屋さんの様子)Clik here to view.