今回は、通称「がくだい」と呼ばれる学芸大学駅です。
東京学芸大学は1964年に移転統合によって東京の小金井へ移ってしまい、今は同大付属の世田谷高校が駅の北西およそ700mさきにあります。
子どものころ、学芸大学って学芸会の学校かと本気で思っていました。
毎日お芝居や楽器演奏やっている楽しい学校みたいに(笑)
実際のところ、もとは東京(第一~第三・青年)師範学校ですから、つまり教員養成、先生を育成する学校なのです。
付属世田谷高校は、お隣の都立大学駅が最寄りの同大付属中学校、小学校と一緒で、教員養成大学の教育研究校的な存在だったので、国立や有名私大への進学者も多く、付属に入るには偏差値をかなりあげて入試を突破しないと入れない学校です。
ずいぶん前にテレビで観ましたけれども、アメリカのアイビーリーグのある付属高校では、エリート教育に演劇を取り入れていました。
何でも、芝居の中で様々な役割を演じることで、色々な立場の人間を斟酌してみることが大事なのだそうです。
例えば、将来法曹関係に進む子どもたちに、被疑者や死刑囚の役を演じてもらったり、医学部を目指す生徒に、患者を顧みず製薬会社と結託して金儲けに走る権威的な医者を演じさせたりと、けっこうえげつない役を楽しそうに演じていた高校生が印象的でした。
ちゃんと「自分もそうなる可能性」を冷静に受け止めながら。
だから日本のエリート養成高校でも、そのうちに「学芸」を取り入れたりするかもしれませんね。
なお、大学は移転したものの、駅周辺のお店は学生街の面影を色濃く残しています。
商店街はともかく、学芸大学駅周辺では二つの池をご紹介しましょう。
一つ目は、南東800mの地点にある清水池です。
目黒区内では唯一、都心部でも数少ないへら鮒釣りができるのが、この池のある公園です。
平日の昼など、昼休みを利用してフィッシングを楽しむ釣り天狗を見かけます。
清水池公園は魚の持ち帰りが禁止され、ノーフラシ、つまり魚篭を使わないことが原則なので、釣った魚はすぐに放流されるようです。
私は釣りはやらないので、釣った魚をすぐ放してしまったら、何度も同じ魚を釣り上げることになりはしないかと心配してしまいます。
またお前か…みたいに。
ただ、知り合いにきくと「魚釣りはへら鮒に始まりへら鮒に終わる」というくらい、奥深いものがあるそうです。
そういわれてみると、ここの釣り人たちは川も磯も舟も知り尽くしたような雰囲気の方たちばかりです。
彼らの背後、池の脇には池之上開運弁財天があります。
(弁財天と釣り人たち)
もう一つは、碑文谷池です。
こちらは学芸大学駅から線路沿いに次の都立大学駅方向へ向かう途中にあり、東横線の車窓からもよく見えます。
もともと三谷の池という名前で、前回ご紹介した通り鷹狩りの対象となる野鴨が多くいたといいます。
その後、灌漑用として使われてきた池が、1932年に当時の東京市に寄附されて翌年に公園となったものです。
子どものころから「あの公園でボートに乗ってみたい」と思ってきたのですが、ブロンプトンを購入するまでは学芸大学の駅で降りたことすらなかったので、果たせないできて、この年でいまさらボートに乗るわけにもゆかなくなってしまいました。
清水池よりも大きな碑文谷池の周りには、藤棚や小さなバラ園などがあり、子ども向けの動物公園も併設されています。
路地を隔てたテニスコートや野球場、体育館のある側では、ポニーの引き馬や乗馬体験(有料)までできるコーナーがあります。
ここで小さなお子さんに乗馬体験をしてもらって、馴れてきたら世田谷の馬事公苑とか、横浜根岸の森林公園に併設された馬の博物館へ行って、大きなアラブ種の乗馬にステップアップしてみるのも良いかもしれません。
都内でお手軽に乗馬体験できる場所なんて、そうそうありませんから。
また、池の周囲の樹木もかなり大きいので夏など木陰で涼むには最適の場所です。
公園の施設ではありませんが、東横線の線路側には民間の卓球場が隣接していて、夏など休んでいるとピンポン玉の小気味よいラリーの音が聞こえてきます。
碑文谷池には太鼓橋で結ばれた島があり、江戸時代にこの付近を知行していた神谷氏が納めた弁天像を祀る厳島神社があります。
こちらもやっぱり弁天様です。
そういえば、井の頭公園にも同じように中の島に弁天様がありました。
もともと弁財天の発祥はインドの河の神さまサラスヴァティーだそうでこうして水辺に祀られる場合が多いのだそうです。
日本にきて五穀豊穣を祀る宇賀神信仰と結びつき、さらに時代が下って七福神に組み込まれることによって、開運の神さまとして民間に膾炙していったといいます。
じつは中目黒からここまで目黒川の支流である蛇崩川や谷戸前川をご紹介してきましたが、清水池と碑文谷池については水系の異なる、立会川の源流なのです。
目黒川というのは、河口が天王洲あたりで東京湾に注いでいますが、立会川は京急線に駅があるように、もっと南の勝島付近で東京湾に注いでいる川です。
(暗渠をたどると、清水池の水は目黒川の支流である羅漢寺川にも人工的に落水されていたふしがあります)
川の名前の由来は、その一説が旧東海道の旅に出てきました。
鈴ヶ森刑場へ曳かれてゆく罪人が家族との離別をするのがこの川を渡る橋だったので、立会いという名前がついたということです。
立会川の川筋も大変面白くて、河口から上流へ向かってたどると、立会川(京急本線)、大井町(京浜東北線)、西大井(横須賀線)、荏原町(東急大井町線)、西小山(東急目黒線)、そして源流付近が学芸大学駅と、それぞれの駅の近くを結んでいます。
川筋なので迷うこともありません。
ブロンプトンをつれていれば、例えば大井町線から横須賀線に乗り換えるときなど、いちいち乗り換えて品川や武蔵小杉に出る手間が省けますので大変便利です。
私は西大井の駅なんて降りたこともなかったのですが、川筋を知ってからは二、三回利用しています。
次回はここ碑文谷から柿の木坂を抜けて、都立大学駅へ向かいます。