パーラーと名の付くお店で、真っ先に思い浮かべるのは銀座にある「資生堂パーラー」で、次点が新宿東口の「タカノフルーツパーラー」、そして札幌の「雪印パーラー」です。
もちろんどれも行ったことがありますよ。
たしか雪印パーラーのお隣だか並びに本屋さんがあって、そこで北海道でしか売っていないような本を探したあとに、雪印パーラーへ行くのが札幌駅前での楽しみになっていました。
タンチョウの生態を研究した北大の先生の本を読みながら、アイスクリームを頬張るみたいな感じで(笑)
あれはあれで、旅のよき思い出です。
いまやネットで本もアイスも注文できる時代になって、あの本屋さんは残っているのでしょうか。
(「氷」の旗が下がっていない季節は、まず気がつきません)で、今日ご紹介するのは、パーラーはパーラーでも上記3店とはまったく似ていないお店なのです。
その名を「タナカフルーツパーラー」といいまして、場所は東急目黒線の西小山駅から、にこま通り商店街を抜け、ニコニコ通り商店街との境にあたる信号機のある交差点まできたら左折し、70mほど南へ向かった芝信用金庫西小山支店のお隣にあります。
そもそも「パーラー」(parlour)とは古フランス語で「しゃべる」の意が建築古語の宮殿における客殿から、接客室、応接室に転じ、それが軽飲食店などの営業室や客間、居間という意味になったそうです。
それでパチンコ屋さんはパーラーを名乗っているわけですか。
(いちばん上にのっているサクランボだって、缶詰のではありませんよ)ブロンプトンに乗るようになってから、電車賃の節約がてら、運動不足の解消がてらに自分の居住する東急東横線沿線や、目黒線沿線をしょっちゅう走る習慣がついて、何度もこのお店の前は通過していましたが、長いことただの八百屋さんとしか思っていませんでした。
あるときすぐ先にある交差点の信号が赤だったので、減速して何気なく横を向くと、八百屋さんの脇に年代物のガラスケースがあって、古い喫茶店にありがちのパフェや飲み物のサンプルが並べられているのに気付きました。
置き看板には「タナカフルーツパーラー」とあって、これまた年代物の引き戸には「営業中」の札が架かっています。
隣の八百屋さんの店先に並ぶ果物と交互に見比べて「?」と思っていると、八百屋さんの名前も「たなか」です。
そう、ここは果物屋さんと喫茶店が融合した、日本橋の千疋屋さんのようなお店なのです。
しかし、間違っても千疋屋さんを想像して行ってはいけません。
コンセプトは同じでも、素朴さの度合いがまるで違いますから。
(メロンにそのまま生クリームです)まるで金八先生のような動作で「ガラガラ」と木製の引き戸を開けて中に入ると、小さな木製カウンターと、テーブルに合計6席ほどの丸椅子が並んでいます。
ひとつだけあるテーブルといい、真ん中に穴の開いた丸椅子といい、まるで昭和のロケセットです。
最初に入ったのは夏だったのですが、もちろんクーラーはついていません。
それゆえ、ここではわざわざ海の家まで行かなくても、かき氷本来の冷たさが楽しめるのです。
お隣(といっても板戸一枚向こう)の八百屋さんを切り盛りする奥さまから果物が手渡され、お二人がカウンターの中でこしらえた果物入りのかき氷をいただきます。
引き戸の脇に置かれた、スチール製の学習机(小学校のころに使っていた、蛍光灯が組み込まれたタイプで、これまた懐かしいのでした)に座りながら、ランニング姿のご主人がテレビで紹介されたときの話をしてくれました。
なんでも年を取ったお二人が切り盛りしているこの小さなお店に大勢の人が押しかけてしまい、大変だったそうです。
場所が目黒区というのも、目についた理由かもしれません。
考えてみれば、ジュースはできたての生だし、パフェやかき氷に新鮮な果物をのせて出してくれる喫茶店なんてそんなにはありません。
バナナジュースとかメロンジュースだって、注文を受けてからお隣のお店より調達してつくるのです。
東京っていうと、すぐに気取ったお洒落なよそ行きの街を想像してしまいますが、どこの区でも生活があって、こういう商店街はあります。
そして、おそらくは後継者がいないために、今の代でおしまいなのだろうと想像してしまいます。
ここに住んでいるわけではないけれど、ブロンプトンに乗って汗をかいたら、このお店に立寄り、口の周りに泡をつけながら生ジュースをプハーッなんて、健康的じゃないですか。