16:24発篠ノ井線上り甲府行きに乗るため、姨捨の棚田下から稲荷山駅へと向かいます。
途中で武水別神社(36.519379, 138.102997)の脇を通ります。
この神社、創建時期が不詳のえらく古い神社で、12月の新嘗祭は国の無形民俗文化財に指定されています。
また周囲の八幡温泉、稲荷山温泉は、複数の旅館があって、千曲川対岸はあんずの里のある更埴、北に善光寺街道の稲荷山宿、南に姨捨の棚田と観光資源に恵まれているのに、戸倉上山田温泉ほどの知名度がありません。
自分も学生のころからスキーへ行くために国道18号線を何度もバスで往復していたにもかかわらず、温泉の存在すら知りませんでした。
秋には洋梨、その後に林檎が実ってとても豊かな雰囲気の場所なのに、勿体ないと思います。
こんど収穫のころに棚田とあわせてゆっくり巡ってみようと思います。
稲荷山駅(36.552654, 138.108190)は、善光寺街道(北国西街道)で最大の宿場である稲荷山宿近くに設けられた駅です。
北国西街道とは、中山道の洗馬宿から分岐して松本宿を通り、これから電車で向かう麻積宿から猿ケ馬場峠を越えて長野の丹波島宿へいたる脇往還です。
ちょうど現在の篠ノ井線に沿った形になっています。
稲荷山宿は、街道の峠下にあって、ここから谷街道という脇往還のさらに脇往還が分岐していたので、物流の交差点でもありました。
江戸時代末期から明治期にかけて養蚕物の集積地として栄え、その遺産としていまも蔵の街と呼ばれています。
これに対して、軽井沢よりやや西にある中山道追分宿のはずれから分岐する北国街道は、千曲川右岸をたどって、篠ノ井追分にて北国西街道と合流し、ひと昔前のJR信越本線(いまは北陸新幹線開業に伴ってしなの鉄道・えちごトキめき鉄道になりました)に沿って、直江津で北陸街道に接続していました。
善光寺へ参詣する旅人だけでなく、佐渡の金を江戸へ運ぶ重要な道であったといわれています。
善光寺平や千曲川沿いは、狭隘な地形に中山道も含めていろいろ街道が走っています。
旧東海道の旅のように、江戸から京を目指すのも面白いですが、軽井沢や長野市など、どこか一カ所に避暑も兼ねて数日間滞在し、あちこちの昔道をブロンプトンで辿ってみるのも面白そうです。
ちなみに、こちらは旧東海道と比べ物にならないくらい、温泉がありますので、「ブロンプトンで街道をゆく旅」をしながら、あちこちで温泉に浸かるのも面白そうです。
おっと、今日は街道の話ではありませんでした。
稲荷山駅は無人駅で、待合室にはなぜか猫の家が置いてあるのを見かけました。
もしかして、ここにも駅猫がいるのかしらん。
篠ノ井線は松本の南の塩尻から篠ノ井へいたる路線ですが、松本方面の方が上りで長野方面が下りです。
県庁所在地で新幹線も通っている長野方の方が下りということは、より東京に近い松本の方が上りという意味でしょうか。
長野市と松本市のライバル意識はさておき、時間的には松本より長野の方がずっと東京に近くなってしまいました。
篠ノ井線を走る特急も、名古屋方面へ向かいますし、この路線は信州にあって微妙です。
定刻通りに来た電車は、長野発甲府行き。
これで甲府にまで乗って、中央線の各駅停車に乗り換えれば、高尾や新宿まで帰れます。
げんに、時間はあってもお金の無い青春18きっぷの利用者が、なるべく他社線に支払う運賃をセーブして東京から長野まで行こうとすれば、中央本線と篠ノ井線を乗り継ぐしか方法はありません。
しかし、稲荷山駅16:24発のこの電車に乗って、始発駅の関係から小淵沢と大月で乗り換えてゆくと、東京駅到着は22:32ですよ。
乗り継ぎの接続が悪いので、途中夕食を食べる時間はあるものの、考えただけで疲れます。
それでも、新幹線に乗って行くより、信州へ行ってきたという気持ちになるかもしれませんね。
そんな篠ノ井線の電車は、終点の甲府までは絶対に乗らないであろう高校生や地元の人たちを乗せて、冠着トンネルをこえるべく勾配をのぼってゆきます。
乗車はちょうど席が埋まるには少し足りないくらいで、立っている人はいません。
ブロンプトンをつれて乗るのに、迷惑は掛からないでしょうが、グループで乗車するなら車両を分けた方が良いかもしれません。
進行方向左手には、午後の陽を浴びた善光寺平が、列車が高度を増すにつれて徐々に広がって見えてきます。
稲荷山駅はSuicaのシステムも無いので、車掌さんが車内を巡回して来るさいに、「聖高原まで」と言って切符を購入しましょう。
運賃は320円ですよ。
車内で切符を買うのもなんだか新鮮です。
日中何度も来た姨捨駅で、行き違いの列車をやり過ごすために4分停車します。
日本三大車窓に数えられるこの景色も、地元の人にとっては毎日見るものだから、べつだん美しいと感じるわけでもなく、車中の人はみな携帯電話に目を落しています。
電車がスイッチバックの駅を出ると、やがて長い冠着トンネルを抜け、冠着駅(36.457239,138.079222)に到着します。
Facebookによると、この駅にもお猫さまがいらっしゃるそうで、一つ手前のここで下車して、お隣の聖高原駅(36.454927, 138.047508)までくだり坂をブロンプトンで走れば良かったと、あとから後悔しました。
聖高原でのバスの乗り換えには、少し時間があるのです。
冠着駅なら、上り線に限ってですが、ホームから出口まで階段を使わずに出られますしね。
さて、実際の私は、昼間の疲れがもろに出て、電車の中で居眠りをしておりました。
でも寝過すと上り下りとも1時間に1本しか列車がありませんので、大変なことになります。
ちょっとボンヤリした頭でもって16:47に聖高原で下車します。
電車を下車した途端に、さ、寒い。
17時前ということもあるのでしょうが、6月の棚田は初夏を思わせるような日差しだったのに、ここ聖高原駅のホームではカーディガンが欲しくなるような涼しさです。
ここの駅はエレベーターなど当然なくて、島式ホームから階段を上り下りして改札口に向かいます。
疲れた体にけっこう堪えたので、そういう意味からもひとつ手前の冠着駅で降りた方が良いと思います。
それなら稲荷山からの運賃も240円で済みますしね。
(何ケチなこと言っているのでしょう)
嘱託の駅員さんがいて、切符を回収するためにいちばん最後に改札を出る私を待っていました。
さて、麻積(おみ)村村営の聖高原行バスは17:17発。
ちょっと時間があります。
本当は駅前の食堂で早目に夕食を食べてしまいたいのですが、まだ17時前ということでやっていません。
国道沿いに行けば何かあるかしらんと思い、ブロンプトンを展開して駅前の緩い坂をのぼり、かなり交通量の多い国道を走ってみますが、あるのはスーパーとコンビニだけ。
村の人口から言ったら仕方ないでしょう。
駅前で待っているのもなにかと思い、さらに坂をのぼってバスの時間まで北国西街道麻積宿の街並みをのぞきにゆきました。
山あいの斜面にへばりつくように、街道沿いにならんだ家々の雰囲気は、旧東海道の宿場とずいぶん趣が違います。
こちらの方が越える峠の高さや頻度から「旅の厳しさ」が感じられます。
おっ、松尾芭蕉先生の句碑発見です。
「身にしみて 大根からし 秋の風」
「ひょろひょろと なほ露けしや をみなへし」
どちらも夏から秋にかけての歌ですね。
これは9月とか10月にもう一度来ようかな。
そろそろバスの時間なので駅へ戻ります。
ブロンプトンをつれていてよいと思うのは、こういうちょっとした待ち時間にもお散歩ができるところです。
また改めて来て、じっくり見てみようという気持ちになります。