横浜の山手にある本牧台地の上へのぼるルートをご紹介してきたこのシリーズも、これで最後になります。
多摩の黒川地区を参考にした「ブロンプトンを肴に地形を読む」から数えたら、16回も続きました。
最終回はそのオチともいえるルートのご紹介で締めくくります。
ブロンプトンがもつ機能の中で、他の自転車に比肩をゆるさない内容といえば、その最もたるものは次の4つに要約されるのではないでしょうか。
・折りたたみと展開が簡便であること
・畳んだまま曳く(転がす)ことができること
・畳んだ状態が立方体に近く、かつ容積が小さいこと
・小径車の走行性能と、折り畳み時の大きさのバランスを極限にまで追求していること
特に、折りたたんだときの持ち運びのし易さは群を抜いています。
ということは、これを利用しない手はありません。
逆をいうと、この手はブロンプトンのみが使える、いわば自転車としての禁じ手のようなものです。
だから、最初にお断りしておきますが、実行するときはくれぐれも他の通行人の迷惑にならないよう、配慮をお願いします。
みなとみらい線の「元町・中華街駅」に注目してください。
横浜駅・渋谷駅寄りが中華街口・山下公園口・山下町口・マリンタワー口など、主に観光客が利用する側です。
逆のホーム行き止まり側が元町口とアメリカ山口になります。
こちらは主に地元の方が利用しています。
通常ブロンプトンをつれてこの駅を利用する場合、中華街口の方がエスカレーターの乗り継ぎが少なくて済むので楽なのですが、今回はあえて元町口の方から出ます。
改札を出て左に行くとすぐ元町口で外に出られますが、逆に右に行くと手前にエスカレーター、奥にエレベーターがみえます。
こちらがアメリカ山口です。
アメリカの山口さんではなく、アメリカ山の出口です(^^;)
いままで、イタリア山、フランス山と、横浜にある外国山公園をご紹介してきましたが、アメリカ山というのは初耳ですよね。
横浜市民にも「アメリカ山」の存在は前二者ほどにはしられていないのです。
それもそのはず、ここは日本における西洋式公園の歴史を誇る横浜としては、2009年開園のニューカマーにあたるからです。
それでも、「日本初の立体都市公園」という称号がついているのです。
公園についてはいつか改めてご紹介しますが、都市庭園の在り方に興味のある方は、ぜひ行ってみてください。
さて、エスカレーターに乗ると、普通の商業ビルディングと同じく、ひとつ階をあがる毎に通路を折り返して、またエスカレーターに乗りという形で、屋上まで3回エスカレーターを乗り継ぎます。
通路にはテナントが並んでいますが、ここが公園という気はあまりしません。
奥のエレベーターなら屋上までそのまま直行できます。
もちろん、ブロンプトンは畳んだままですよ。
重ねてお願いしますが、エスカレーターでも、エレベーターでも、他の利用者に配慮してくださいね。
たとえば、仮にエレベーターを待っていて、背後から乳母車を押した人や車いすに乗った人が来たら、気持ちよく先を譲ってください。
「のんびり行っても早い」それがブロンプトンなのですから。
屋上に出た途端、思い出すのはデパートの屋上にある庭園です。
二子玉の島屋あたりを想像してもらえると、良いと思います。
ただ、緩い坂をのぼった先に門があり、そこから出られるという点が違います。
アメリカ山公園の中は自転車乗り入れ禁止ですので、畳んだままBromptonを転がして正面に見える門を出ましょう。
なに、これが公園?と思えるほどの小ささです。
たいした距離ではありません。
なお、人がいないから、すぐそこだからといって、くれぐれも公園の中で自転車に乗らないようにしてください。
浪馬は一度押し歩きしていて、警備員さんに、どこから来たのかと誰何されたことがあります。
畳んでエスカレーターで来ましたといっても、怪訝な顔されちゃいました。
門の外まで歩いてゆき、脇によって、他の通行人の邪魔にならないように展開します。
実は公園の門を出たところが、見尻坂の上部になっていて、ここから緩い坂を100mものぼれば、横浜外国人墓地の正面に出られるのです。
見尻坂は元町のウチキパンさんの先、基部からのぼると、階段があって自転車は抱えてのぼることになります。
また、逆サイドの谷戸坂は、あがればあがるほど傾斜がきつくなってゆくのは、のぼったことのある人なら分かると思います。
つまり、Bromptonを畳んだ状態でエスカレーターやエレベーターを利用することにより、坂をのぼるのをパスしてしまおう、というのが最終回のオチなのでした。
ええっ、地形図の読み方や道の見つけ方から長々と説き起こして、実際にトンネルくぐって4.8㎞もの緩い坂による迂回路を紹介しておいて、結論がこれ?と言われそうですが、いいじゃないですか。
そこがブロンプトンの素晴らしいところなのですから。
このシリーズが「旅の知恵と技術」に含まれていたのは、こういう訳だったのです。
実はこの禁じ手、二子玉川、京成上野駅(上野山公園)、上中里駅、飛鳥山公園、猿橋駅、上野原駅などでも使えるのですが、その都度ご紹介しましょう。
それぞれの共通点は、段丘の段差斜面に設けられた、公共の昇降機です。
この言葉だけでピンと来る人は、相当の「地理オタク」でしょう。
実はこのアイデア、子どものころの「秘密の通路」に由来するのです。
近所に山の斜面を利用した大きなマンションが2棟建っていて、それぞれのマンションのエレベーターを、自転車を押しながら乗り継ぐと、山の上に出られるということは、地区の小学生の間では常識になっていました。
放課後に友だちが住んでいるのを良いことに、急な坂を避けて2つのエレベーターを乗り継いで山の上で集合なんてことをよくやりました。
いつのまにやらマンションの入口には「住民以外立ち入り禁止」の看板がたてられ、後から立ったマンションも、用の無い人以外は入れないようになってしまいましたが、あの頃は子どもが通り抜けることについて寛大でした。
今よりも、子どもを見つめるまなざしが優しい時代だったのかもしれませんね。
なお、下りは谷戸坂、代官坂、潮汲坂と、階段の無い坂を選んでゆっくりと降りてきてください。
(見尻坂、貝殻坂、フェリス坂等は、階段があるので乗ったままでは下りられません)
何度降りても、「また畳んでエレベーターでのぼればいいや」と思った瞬間から、あちこちの坂を下るのがさらに楽しくなりますよ。