こちらのテーマについて書くために、駅前に並べてあるスキーツアーのパンフレットを幾種類か手に取って見てみました。
すると、そこにあるのはJR+宿泊か宿泊のみ(おそらくマイカーで行くということ)のプランだけで、バスツアーはひとつもありませんでした。
いまどきパンフレットを見て旅行に申し込むなんて古い、ネットで最安値のツアーを探せばいいと思うかたもいらっしゃるかもしれません。
けれど、そこに落とし穴がある気がします。
(かつてスキー場だった場所で―大町スキー場 今回も写真と本文は関係ありません)
紙のパンフレットを刷って置くというこということは、それだけ余計な経費をかけているということです。
今回のツアーには「ネット直販だからできるこの価格」という文言があったのですが、私は直販という言葉が気になります。
そして、経費をかけて店頭申し込みをするツアーの中にバス利用が無いのだとしたら、バスを使ったツアーは、募集しても採算のとれる人数まで集客できないか、経費のかかる募集形態には馴染まないほどに、薄利になっているかのどちらかと考えて良いのではないでしょうか。
(八重洲北口の裏にあるJRバスのプール)
それを証明するためにも、こちらのお話は旅行会社が原価計算をするように、貸切バス料金を国土交通省が定めた公示運賃で計算してみましょう。
いくら貸切バスの利益構造について論じても、きちんとした数字に裏打ちされていなければ空論になってしまいますから。
まずバスの運賃に含まれるものは、
・バス利用料金
・運転手の料金
・燃料費(ガソリン代)
・バス車内での事故に対する保険料
です。
このほかの、高速道路料金や駐車料金、乗務員の宿泊費及び気付けなどは含まれていません。
(雲海―八方尾根 見えているのは右から戸隠、黒姫、妙高の山々だと思います)
そして運賃計算ですが、基本的にはタクシーと同じ走行距離+所要時間になります。
これに深夜の割り増しがつくところも同じです。
ただタクシーと違うのは、交代要員が乗務するならその費用、バスの車庫や営業所から送迎場所までの往復の(距離+時間)分や、乗務員の宿泊費などが加算されるところです。
えっ?距離はともかく、所要時間はどう決めるのかって?
ふふふ、一般人には知られていませんが『道路時刻表』なるものがあるのですよ。
今でもネットで検索すれば、国交省関係のページで出てくるはずです。
道路時刻表とは、単純にいえば、距離を制限速度で割った表です。
(純粋な制限速度ではなく、信号待ちなどの時間も加味した評定速度でしょうけれど)
昔は年に1回発行されていて、それこそ誌面の形式は鉄道時刻表に倣っていて、時刻表ファンとして見ていて「無理があるなー」と思っていました。
道路の場合、標準時刻を定めたところで、渋滞が起きたら全くあてになりませんから。
バス事業者には、こうした数値をもとにした運行管理ソフトや運賃計算ソフトがあるはずですが、鉄道等と違って経路指定したりする部分が複雑だと思います。
もちろんこちらは個人ですから、走行距離をルートラボで測り、所要時間はバスの出発・到着時刻から実質走行時間割り出して計算式に代入してみます。
今回のバス出発地の原宿から斑尾高原までの距離と時間を以下のように定めます。
原宿駅前~斑尾高原ホテル前 265.3㎞(うち高速道路232.6㎞)
ちなみに①練馬~東松山・②松井田妙義~佐久の区間だけ高速を使用した場合の距離は、276.8㎞に伸びます。(うち高速道路①39.4㎞ ②33.8㎞の合計73.2㎞)
往路は事故のバスと同じ23時に東京の原宿を出て、翌朝7時に斑尾高原へ到着、
復路は同じルートを17時30分に現地出発22時30分帰着で、佐久から練馬まで高速に乗るものとして計算してみました。
すると結果は下記のようになりました。
40人乗車で下限額の一人頭が5,500~6,700円で、20名乗車だとおよそ倍です。
それに高速料金や乗務員宿泊費などを乗せると、40人乗車で1,000円程度の加算、20人乗車だと1,500~2,000円の加算といったところでしょうか。
今回の下限運賃は報道によるとおよそ27万円といわれています。
計算結果との差は、
・送りのスキー場が一カ所ではなく、複数個所にまたがっているため、距離も時間も伸びる
・走行時間は実質ではなく、標準時間で計算されるため、実際の走行にかかる時間よりもかかる
ということから来ているのだと思われます。
自分の会社にいたころの個人的な感覚だと、この距離で片道夜行の往復だと、バス原価は34万円前後だと思っていたので、公示運賃自体は当時とあまり変わっていないのでしょう。
(ドライバーならだれでも高速に乗りたがるはずです)
ここで、事故を起こしたバスの正規の行程について、疑問を持つかたもいらっしゃるかもしれませんね。
都心部を出て練馬ICから関越道にのり、東松山ICで一旦おりて、松井田妙義ICから再び上信越自動車道にのり、2つ先の佐久ICでおりて、あとは斑尾まで延々と下道を走るというものでした。
スキーやスノボをやって、なおかつ往復のハンドルも握る自家用車のドライバーなら、こんな行程での冬期夜行ドライブは絶対にごめんだと言うにちがいありません。
お金に余裕があるのなら、途中高速道路は一度もおりずに、練馬ICから斑尾高原の最寄りにある豊田飯山ICまで利用するはずです。
次回はそのあたりの事情についてバス原価の計算結果に加味して書きたいと思います。(つづく)