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Channel: 旅はブロンプトンをつれて
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スキーツアーバスについて思うこと(その3)―バス仕入れとその背景

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旅行会社というものは、ツアーを企画する際には必ず原価計算をするものです。
これは、店頭などにパンフレットをならべている企画募集型のツアーでも、15人程度の職場内の慰安を目的とした手配斡旋型の旅行でも全く同じです。
私が入社したころはまだ紙で計算していまして、「部内見積もり」と書かれた色付きの紙に、事細かに交通費、宿泊費、飲食費などを記入してゆき、総費用から原価を算出して旅行代金を決めます。
そして、原価との差額がそのツアーの粗利になるわけです。
もちろん、企画募集型、手配斡旋型を問わず、一人当たりの原価や利益の計算もします。
計算機と時刻表、原価表を片手にするこの部内見積もり(通称「うちみつ」)の作業って、趣味でやるぶんには楽しそうに見えるのですが、仕事でやるとなるとけっこう大変です。
さすがにのちにはパソコンでできるようになりましたが、自分はあまりにも面倒くさいので、当時まだ高価だった私物のMacを職場に持ち込んで、エクセルで表を作成して計算していました。
すると、旅行参加人員が一名減るごとに、総費用における一人当たりの原価が上昇してゆき、利益率を圧迫する様子が手に取るように分りました。
(分母が減ってゆくわけですから当然です)
旅行会社の営業利益はイベント屋さんと同じで、どれだけ大人数を動員できるかにかかっているのです。
だから昔の営業マンはバスを何十台も連ねて、いくつものホテルを借り切って、巨大なバンケットで大宴会したことが誇りだったりするわけです。
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(八方尾根兎平 今回も本文と写真は関係ありません)

で、何が言いたいかと申しますと、部内見積もりにおいて利益率が高いのは、宿泊費と交通費のうちで貸切ることのできる機関なのです。
ホテルだって、部屋ごとに仕入れるよりまるまるひと棟買い取った方が、利益があがるのは容易に想像がつくとおもいます。
交通費に関して言えば、当時は修学旅行や宗教団体のために仕立てる臨時列車(前者を「修旅専用臨」、後者を「団臨」と呼んでいました)もあったのですが、貸切といえば殆どがバスです。
車両をまるまる貸切るわけですから、乗車定員内で何人乗せるかも旅行社側に自由がありますし、売価もまた自由に設定できるので、それこそ言い値で売れるわけです。
バスに代わるような大人数を載せられる交通機関といえば、鉄道しかありません。
その鉄道は運賃や料金は(団体としての割引はあるものの)きちんと公示され、勝負にならないほど原価が高いとしたら、旅行会社は貸切バスを使用すればその差の中で利ざやを稼ぐことができるのです。
もちろん、安値で仕入れれば仕入れるほど、利益は拡大するので一方で、弱い立場のバス事業者を買い叩くという現象が起きるわけです。
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(これはケルン。死者の霊を弔う意味もあるそうです)

何だかハゲタカのような旅行会社のイメージですが、これが斡旋業の本質、つまり手数料商売の宿命です。
ただ、あからさまに収益優先に走っている会社はごく一部だということもお断りしておきます。
(まぁ自分がいたころもどんどん余裕が無くなっていましたが、そう信じたいです)
そもそも、バス会社にとっての命題はホテルなどの宿泊施設と同じく稼働率をあげるということなのです。
すなわち、バス事業者の営業はいかにして持っている車両を車庫で寝かせておかずに、お客を乗せて運行させるかを絶えず考えながら、お客をまわしてくれる旅行会社とお付き合いするのです。
(運転手さんなどの乗務員にはこの稼働率は当てはまりませんのでご注意を)
対して、昔は大手旅行代理店などの大きな街の支店や、県庁所在地の支店には、かならずバスの「手配師」と呼ばれる人がいました。
「師」と名のつくように、彼らはバス手配の職人さんです。
仕事は外回りしても旅行をとってくるのではなく、バス会社とお付き合いするのです。
たとえば、大型連休などだけではなく、国体など大きなイベントがあるときには、バスの需要はひっ迫して車両が不足します。
そんな時、手配師は他支店の手配師を通じて県外からバスを集めたり、場合によってはライバルである別の旅行会社の手配師を通じて、車両を融通してもらったりします。
もちろん、平素バスが余剰なときに、どれだけ旅行需要を創生してバスを使ってあげるかも考えています。
「この日埋めてよ」とバス会社から頼まれると、旅行営業マンにゴリ押しして旅行日程すら変えてしまう敏腕手配師さんもいました。
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その昔は、学校が大きな貸切バスの固定利用者でした。
教育旅行市場というのは非常に特殊な世界で、1年前から何月何日にバスが何台必要だとはっきり分かっている市場なのです。
(学校の年間の行事予定は毎年決まっているし、年度途中で生徒が著しく増減することはまずありませんからね)
だから、大手の旅行会社で学校の修学旅行や林間学校を多く扱っている会社ほど、供給過多になる平日にバスを利用することで、逆に需要過多になる週末やイベント時にバーターでバスを用意できたわけです。
そして、学校営業をしている社員は、プライベートで遊園地へ行ったときなども、駐車場に並ぶ大型バスのバイザーに貼りつけられた学校名と取扱い旅行社名をメモして帰るなどということをしていました。
子どもが減って、学校の生徒数が落ち込んだ今となっては、懐かしい話になっているはずです。
大手の旅行会社が顧客から安心をもって迎えられ、また収益率も高い原因には、この仕入れの強みがあってこそなのです。
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(夏の八方尾根)

昔はバス会社の営業マンにも、旅行会社のバス手配師にも、「おれたちの仕事は人の命を預かっているので、物を運んでいる物流とは違うのだ」というプライドがありました。
そして当時の人付き合いはまさしくFace to Faceでしたから、義理人情の利く世界だったのです。
このプライドと人情は、良い意味で働いていて、お互いにダンピング競争などに歯止めをかけていました。
当時から貸切バスの運賃制度というものはありましたが、手配師は自分が差配できる範囲内で需給のバランスを頭の中で計算し、「その日のバスなら大型でいくらだな」と即答できました。
そんな調子でしたから、ライバル会社の間で車両を融通しあうなどということができたのだと思います。
ところが、バス事業の方は規制緩和で他業種からの参入が相次ぎました。
それこそ、路線バスの営業所に付随していた貸切バス部門と、空港近くで駐車場やホテルの送迎をやっていた業者や、港湾近くでトレーラーを抱えて物流をやっていた会社がバス車両を導入してはじめた素人同然の商売とが、対等に競争するようになってしまったのです。
当然、抱えている乗務員の質や、安全へのプライドなどは原価に反映されにくくなります。
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いっぽうで大きな旅行会社も収益をあげるために人員を削減するようになり、支店ごとに配置されていた手配師も転換され、地方の営業本部に直轄した仕入れを集中する部署に統合されてゆきました。
そこでは昔から行われていたような仕事帰りに酒を酌み交わして親交をふかめつつ、お互いの営業情報を交換し合ったり、支店や会社の窮状を訴えたりということもなくなり、ネットやファックスのみでやり取りし、一度も顔を合わせたことのない、他にどんな商売をしているのかも知らない会社にバスをお願いしたり、その会社が仲介手数料を抜いて別の業者に仕事を斡旋したりということが起こるようになったのでしょう。
今回の軽井沢の事故での業者は、もともと中古車販売業者さんですよね。
20125月に起きた関越道でのバス事故の際には、丸投げによるトンネル受注が問題視されていました。
ということで、人がたくさんいて、ネットのない昔に戻せとは申し上げませんが、旅行会社もバス事業者も、顔の見えるお付き合いをしていただきたいと思います。
ただバスの台数と乗務員数の帳尻だけ合わせて、あとはネットで申し込んできたお客さんを出発の際に確認だけしてバスに流し込んで、さぁいってらっしゃいという流れ作業的な姿勢が、結局は、個々のツアーにおける下限割れの運賃受注や乗務員の健康診断を端折る行為につながっていると思うのですよ。
(つづく)
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