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Channel: 旅はブロンプトンをつれて
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古本を検分しに神保町へ

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ある本の訳者のあとがきを読んでいたら、原作本との出会いの中に、高校生の時の読んだエッセイのことが出ていました。
すごくよくできた訳本だと感じたので、そのエッセイを読んでみたくなり調べたところ、作者は西田幾多郎先生、本の題名は「思索と体験」か「続思索と体験」のどちらかに入っていることが分かりました。
今も売っている本ならともかく、絶版になっているので現物を手に取らないと内容までは分からないのです。
それにしても高校生で西田先生のエッセイを読むって、わたしには想像がつきません。
「思索と体験」かぁ、自分なら「読書と(ブロンプトンによる)お散歩」かな、難しい本は睡眠薬代わりになるかもしれないから読んでみようと思いました。
 
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(学生時代にも来たけれど、バブル真っ盛りだったからか、古本屋さんには目もくれませんでした)

ということで、検索をかけたら神保町のとある本屋さんに在庫があることが分かりました。
さっそく電話をかける私。
「あのう、西田幾多郎の「思索と体験」と「続思索と体験」がそちらに古書であると思うのですが、見せていただいても良いですか?」
「ご来店ということですか」
「はい。できれば程度を見てから購入を決めたいのですが。」
「わかりました。お取り置きしておきます。ビルの前まで来たら電話をください。」
ということで、仕事先の新宿から神保町までブロンプトンで走ってゆくことになりました。
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(新刊本も良いのですが、さいきん古本に萌えてしまいます)

私は本だろうが服だろうが、食品だろうがネットショッピングはできる限り避けます。
古本でも、手に取って表紙や装丁全般を眺め、中の状態をチェックします。
自分が本を読むから、古書でもただ本棚に並べられていただけで、一度も通読されていない本かどうかは分かります。
特に文庫本や新書本は持ち歩けるものだから、使用感がはっきり出ます。
ただ、全然読まれていない本がよいかといえば、逆に書き込みや付箋がはさまっていたら、それはそれで前の持ち主の息吹が感じられて面白かったりします。
そして、はしがきや目次をめくり、興味の湧きそうな箇所を斜め読みしてからでないと買う気になれないのです。
だから、いくら返品可能などと謳われていても、なるべく現物を見てから買うようにしているのです。
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(「哲学のなぐさめ」ってボエティウスかと思いました)

世の人はネットの方が便利というでしょうが、私にとってネットショッピングは、買い物の愉しみを放棄しているも同然な気がします。
自分で商品のある場所に足を運び、直接商品を手に取って吟味し、売っている人とコミュニケーションをはさんでから購入を決めるって、人間の経済活動の基本ではないですか。
実際に顔を突き合わせて「この人から買いたい」と思わねば、いくら欲しい商品があっても購入は先送りにするという感覚だって、大切だと思うのです。
また、便利さの裏で運送業界が大変なことになっているのを知るにつけ、ますます心の通いづらいネットショッピングについては、必要最低限にしようと思うのでした。
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(家にある「二宮翁夜話」たしか笹塚の古本屋さんで見つけて買いました。岩波書店の字が右からです)

 
上のようなやり取りがあって、翌々日の夕方、新宿の仕事先から神保町へとブロンプトンで向かう私。
新宿通りを東へ向かい、四谷から外堀の内側を中央線に沿って市ヶ谷まで下り、靖国通りを通って九段坂をすいと下れば、目指す神保町に到着です。
西風が背中を押してくれたとはいえ、新宿から神保町まで15分とかかっていません。
都営新宿線に乗っても、駅の上り下りを合わせれば同じようなものでしょう。
さて、目指す本屋さんの前のビルに着いたものの、店舗は2階にあります。
ところが1階の古書店の前に並べられている古本の棚に目がいって、足が止まってしまいました。
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(歩道に向って雑然と並べてあるところがたまりません)

「へえ、山岡荘八って徳川家康だけじゃなくて、徳川家光も書いていたんだ」
「おお、『二宮翁夜話』のハードカバーがある。家の文庫本は字も小さくて文語体だったな」
(翁曰世人、富貴を求めて止る事知らざるは、凡俗の通病なり、是を以て、永く富貴を持つ事能はず…とこんな調子【八十段】)
(「世の人が、金銭や財産をどこまでも追求してしまうのは、巷にありふれた皆がもつ欠点だけれども、そうすれば贅沢な暮らしが保てるかといえば、そうことがうまく運ぶものではありません」)
「『鉄道線路変せん史探訪』って本は、今でいう廃線鉄のことかな、葬式鉄という言葉があるくらいだから、廃線鉄=回忌鉄でもいいじゃない」
「ボエティウスの『哲学のなぐさめ』とは違い、この本のお題は『哲学者によるなぐさめ』が正しいと思う」
等々、ちょっとひやかしているだけであっという間に時間が過ぎてゆきます。
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(ブックカフェがあったなんて、狭いビルなのに全然気が付きませんでした。)

いけない、店舗には営業時間があるのでした。
そこで、私の目指す店はビルの2階なので階段を登ろうとするのですが、どこにも階段が見当たりません。
エレベーターで2階へ行くのは気が引けるしと思い、奥へ行くと非常ドアの向こうに階段が見えたので、そこをつたって2階へ上がり、書店のドアをノックすると従業員の女性が顔を出しました。
「ああ、電話で取り置きを依頼された方ですね、今持ってまいりますのでこちらでお待ちください。」
といわれて出入口のドア付近で待っていたのですが、その古書店は天井まで本がびっしり、しかも通路は潜水艦並みに狭くて片方の肩を進行方向に向けないと移動できないほどです。
地震が来たら確実に本に潰されるなと思いながらも、こういう風に本に囲まれて仕事をしてみたいと感じてしまいます。
しばらくして、「これでよろしいでしょうか。」と持ってきていただいた商品は、かなり状態が良いものでした。
書き込みなどないかと中身をぱらぱらと確認し、装丁もきれいなので購入を決めて代金を支払いました。
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さっそく帰りの電車の中でぱらぱらと読んでみました。
すると、文章は難しいけれど、テーマは興味をそそられるものあり、テーマ自体の意味すら理解しがたいものの、文章はウィットに富んでいるものありと、なかなか面白いのでした。
こういう哲学者の随筆集やエッセイは、電車に乗って読むのには適しているのかもしれません。
一節がみじかいので、頭から煙を出さずに済むし(笑)
それに、「西田先生、そんなにその本が面白かったんだ」と、中に取り上げられている本をまた探したくなってしまいます。
ああ、またチェーン・リーディングがはじまってしまいそう。
感想はまた改めて書きたいと思います。

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