草津白根レストハウス(白根火山バス停)前(標高2,012m)からブロンプトンで草津温泉方面へと下ります。
渋峠からの道はのぼりもありましたが、ここからは下り坂のみになります。
今回のハイライトはずばり、ここから下の区間にあります。
はじめは草木が殆ど生えていない、岩のゴロゴロした荒涼とした雰囲気のなかを下ってゆきます。
それだけに、前方の眺望はかなり広角に開けています。
そして、草津白根山の火口を左手にみながら、ゆるやかな下りが続きます。
お釜の外側斜面は、蔵王と同様に草木が一本も生えておらず、硫黄なのか石灰なのか、やや黄味がかかった山肌に、白い筋がまだらに走っています。
小さな沢を挟んだ場所から道路手前まではクマ笹が茂っているので、あそこを挟んで土中の酸性度が違うのかもしれません。
長野県から群馬県側へ向かっているので、感覚的には南向きの下りになるのですが、実際は真東を向いて坂をおりていることになります。
天気が良ければ、正面に榛名山、赤城山、足尾から日光、会津にかけての山々まで見ることができます。
日光連山付近であれば、男体山や皇海山(「すかいさん」と読みます)のピークを当てられるとカッコイイのですが、あいにくこちら側からだと折り重なった状態で連なっているため、特定が難しいです。
(白根山湯釜の外側斜面)ところで、皆さんはオーソドックスなジェットコースターに乗っている最中、アドレナリンが一番出るのはどこでしょう。
私は出発して最初のゆっくりとしたのぼりで「乗るんじゃなかった…」と後悔し、やがて最高地点に到達してコースターが慣性に従って下りにかかるその瞬間、あきらめともやけくそともつかない気持ちになるまさにその時です。
(最近のコースターは、わざとそこで一時停止しますよね)
これ、恐怖心の無いスキーでも全く同じで、リフトを降車して急斜面の頭にゆっくりと差し掛かった時が、もっともワクワクする瞬間なのです。
(夏は雲がかかりやすいと思います)今回のコースで言えば、レストハウス前から下り始めて最初の700m~800mくらいはゆるやかな下りが続き、尾根の頭に出てからつづら折りを急降下してゆく最初のカーブが、いちばん興奮する場所です。
かなり遠くまで遮るものが全くないので、空に飛び出した感覚というか、ハンググライダーに乗ったらこんな感じになるのかもしれません。
バイクや車と決定的に違うのは、動力の無い、細いフレームの上に座っているだけという点でしょうか。
だから、滑り台とかジェットコースターにより近い感覚なのでしょう。
つづら折りの下りにさしかかると、バイク乗りだった性なのか、ダイナミックにコーナーを攻めたくなります。
その場合はヘルメットを持参してきた方が良いと思います。
道は冬季閉鎖になるため、舗装路にはかなりクラック(ひび)が入っていて、補修されてはいるものの、あまり自転車を倒しながらコーナーをひらりひらりとスピードを出したまま曲がるのは、やはり危険です。
それよりも、車が停められないような小さなスペースを見つけては自転車を停めて、周囲の植物や遠方の峰々を観察しながらゆるゆるおりたほうが、ブロンプトンらしい旅になります。
(まだかなり若そうです)と、ここで谷を挟んだ向こうの斜面に二ホンカモシカを発見しました。
見たところまだ子どものようです。
付近に親がいないので、親離れしたばかりの2~3歳の個体なのかもしれません。
ああ、こういう時に望遠レンズのついた一眼レフが欲しい。
国の特別天然記念物だから珍しいのかと思いきや、イノシシやクマよりもよく出会う動物です。
むかしオートバイで林道を走っていたら、なぜか道の真ん中に大柄のオスがデンと寝そべっていて、バイクを停めて撫でても全く逃げる様子がないことがありました。
怪我でもしているのかと思って確認しても、どこにも異常はなさそうだし、結局近くの山小屋の人まで行って、営林署に連絡してもらったことがあります。
あれ、間近で見るとシカというよりは牛に近い動物なので、あまり警戒心もなく、神経質な感じがしません。でも、野生の生き物だからなるべくそっと見守るようにしています。
しばらくカメラを向けていたら、タッタと斜面をトラバースして去ってゆきました。
足場が悪いのにあんなに早く走れるなんて、どれだけ足首を鍛えているのかと思いながら、『ふふふ、背後を走る自動車の車窓からでは、あの子は見えまいて』と変な優越感にひたるのでした。
さて、つづら折りの下りを、時速15㎞くらいまでの微妙な速度で下ってゆきます。
後ろから車の列が来たら、躊躇なく路肩に寄せてやり過ごします。
下りなので、車に混じって走ることだって可能ですが、すばらしく環境の良い場所で、なにもわざわざ排ガスを浴びながら走らなくてもいいじゃないですか。
それに、こんなに広くて大きな空は、ほかに山登りでもしなければ見られませんから、路面ばかり見つめながらスピードを出して下ったら、もったいないです。
またこのくらいの速度で、青空のもと山の斜面を下ってゆく経験は、スキーやスノボでもドピーカンの日にでも滑らないと条件が合わないからできません。
スキー同様に鼻歌を歌いながらくだってゆきます。
それくらい気持ち良いのです。
スキーなら技術がないと歌いながらはおりられませんけれど、自転車なら乗れれば何とかなります。
いやぁ、私がブロンプトンでやりたかったのは、まさにこれなのです。
(ブロンプトンがちょっとカモシカに見えなくもないのでした)さて、つづら折りも終盤になると、だんだんと硫黄の匂いがきつくなってきます。
そして白根火山ロープウェイの下をくぐります。
自動循環式のゴンドラで、冬はスキー用になります。
その先で、殺生河原と呼ばれる火山ガスが噴出している地帯にさしかかります。
濃いグレーの大きな岩がゴロゴロしていて、ところどころ湯気のようなものが出ています。
岩と岩の間の地面はやはり灰色で、あちこちに硫黄が結晶となって固まっています。
(白根火山ロープウェイの下をくぐります)
硫化水素って、腐った卵の匂いというよりはマッチの燐の匂いというか、実はそれほど嫌いじゃなかったりします。
なんとなくどこかで嗅いだことがある感覚です。
そうだ、中学の時に化学実験室で燃焼と酸化について学んだ時、こんな匂いがしていました。
しかし最近は別の目的があってわざわざここに来る人もいるのか、道の両側に高いフェンスが張り巡らされている場所もあります。
自転車なら停めてよーく観察したいのですが、「この場所で車をとめないでください」って書いてあるので、通過します。
(左;殺生河原付近 右;ロープウェイ山麓駅)殺生河原を通過すると、まもなく白根火山ロープウェイの山麓駅(標高1,547m)に到着です。
ここまで白根火山バス停から7.4㎞で標高差にして465m下った計算になります。
まずは、ここで自転車をたたんで、ロープウェイに乗りましょう。
むふ、八方尾根以来の経験です。
次回はロープウェイに乗車して再び白根火山レストハウスまで戻り、もう一度同じ道を草津温泉までくだります。