草津白根山の肩をすぎると、再び道は下りになります。
先ほどといい、今回といい、下りはかなり急なので、逆向きに登ることをあまり考えたくはありません。
こちらは目の前には破風岳、四阿山に根子岳、そして湯の丸山と菅平や上信国境に連なる稜線が見て取れます。
また、下り坂になってから1㎞ほどで、道の右側にひょっこりとリフトの降車場があらわれます。
これが万座温泉スキー場の一部で、廃止されてしまった朝日山ゲレンデの最上部になります。
映画「私をスキーに連れてって」では、バス下車した渋峠スキー場の最下部から、この朝日山上部まで、冬期の夕方から夜間かけて強行突破したことになっています。
こうして自転車で春から夏にかけて走ってみると簡単そうですが、最初に書いた通り、冬場のこの区間は無謀です。
私は万座温泉へスキーに行ったことがないのですが、スキーフリークの間では「とにかく寒いゲレンデ」として有名でした。
それでもってあそこの温泉、源泉の泉温が熱いものだから、冷え切った身体を温泉に浸けるといっても簡単ではありません。
これは草津白根山の西麓に位置する万座温泉が、前回説明した草津温泉よりもはるかに複雑な過程を経て湧出していて、火口からの距離が近い分、希釈も微弱か直接噴出していることによるものだそうです。
水で薄めて効能を減じるのもどうかと思いますが、そもそも熱すぎて入れなかったら意味がないような気もします。
スキーネタをもうひとつ。
松任谷由美さんの歌に、「ブリザード」ってありますよね。
日本語で暴風雪の意です。
あの歌がリリースされたころ、東北地方の高所にあるスキー場で、スキーの特訓講座に参加していたことがありました。
一日中吹雪の日に、寒さに耐えて練習していたのですが、なぜか場内にかっている歌が「ブリザード」のリフレイン。
そしてスキーには“Blizzard”という名の板メーカー(オーストリア・チロル)があって、これが中に鉄板でも入っているんじゃないかと思うくらい、重くて硬いのが特徴です。
運の悪いことに、そのときはいていた板がブリザード。
以来、私にとってブリザードという歌も言葉も、「重くて辛くて寒くて痛い」の代名詞になりました。
あの映画であの曲がかかると、真夏でも背筋が寒くなります。
やがて国道最高地点から4㎞ほどで、右万座温泉、鬼押出し、軽井沢、左草津温泉、白根山の分岐へと出ます。
ここで2度目の下り坂はおしまいです。
なお、万座温泉方面に下っても、白根火山へもう一度のぼるにはバス会社が別(西部高原バス)になりますので、たとえ長電バスのフリーパスを買っていても、運賃が別途必要になります。
また、万座温泉から万座ハイウェイを下って吾妻線の万座鹿沢口へ走り込もうとしても、万座ハイウェイ自体が自転車通行禁止です。
ハイウェイをうたいながら、谷間の眺望の効かない道なので、たとえ走ることができたとしても面白くないと思います。
もうひとつ、万座温泉から万座峠へとのぼり、群馬県道466号線、長野県道112号線と稜線から尾根筋を小布施、須坂方面へ下ることが可能です。
しかし、こちらも稜線を通過する割にはあまり眺望のきかない道ですし、交通量が極端に少ないうえに、途中全く人家が無いのであまりお勧めできません。
(渋峠から走った場合、緑の部分が下りで、ピンクの部分は登りです)
さて、分岐から白根火山までののぼりは先ほどの上りにもましてきついと感じます。
長さ自体はおよそ1㎞ですから、押し歩きできない距離ではありません。
小径車なので、焦らずにトコトコとゆっくり登れば歩く必要はありませんが、気温が20度を切っているのに汗が出てきます。
後ろからロードバイクに乗ったお兄さんが、「コンニチハ」と声をかけて抜いていきます。
ああ、若さっていいなと挨拶を返しながら、なぜか頭の中には某有名時代劇のオープニングが…。
「あーとから きーたぁのに おいこされぇ~」
すでにどこかで書きましたが、あの歌、ブロンプトンで登坂するときにぴったりなのです。
こちらの坂はカーブが続くので頂上が見えているわけではないのですが、「さっきあれだけ下るのだったら、もう少しまけてよ」と思いたくなります。
山の斜面に沿ってヒーコラいいながらのぼってゆくと、右手に池が見えてきます。
あれが弓池です。
池の周りは一周できる遊歩道があり、高山上の湿生花園を観察することができます。
対岸には蓬莱岩と呼ばれる、まるで火山を模したような小山があって、まるで神の手がつくった築山付きの日本庭園のようです。
そういえば、山岳用語で山中の湿原のことを「田んぼ」と呼ぶことがあるのです。
例えば「神の田んぼ」や「餓鬼の田んぼ」等など。
お米は取れないけれど、神さまも山の中で田植えをしているに違いない…なんて想像していたのでしょうか。
すぐ先の左側に大きな駐車場と草津白根レストハウスが見えてきます。
ここが長野県、群馬県側からそれぞれのぼってくるバスの終点になります。
往時には、ここに車を停めて草津白根山の湯釜を往復するのが定番観光でした。
駐車場から湯釜を見下ろす縁の部分まで、往復20分くらいでしたでしょうか。
子どものころはそこからエメラルド・グリーンの湯釜におりて、火口湖の水を触ることができました。
ほんのりと生暖かかったのを覚えています。
ところが、2014年から噴火警戒レベルが1から2へと引き上げられたのに伴い、この駐車場付近は駐停車禁止になり、レストハウスも閉鎖になりました。
また、去年までここで折り返していたバスも、長野県側の長野電鉄バスは渋峠で、群馬県側の草軽交通バス、西部高原バスは殺生河原で折り返し運転になってしまいましたので、バス運行が復旧するまでは、今回のコースをなぞることはできません。
往時のレストハウスの賑わいを知るものとしては、一日も早く警戒レベルが下がるよう祈るばかりです。
なお、バス運行を前提にお話すると、さきほど下車した渋峠バス停からここまで、途中にバス停はありません。
フリー乗降区間の設定もありませんから、450円支払って乗るかどうかです。
自分の感想は渋峠⇒白根火山であれば、景色も良いし、登り坂は全体の10%にも満たず、最悪自転車を押し歩きしても何とかなるので、天気が良くて眺望が効くのなら、ブロンプトンで走った方がよいと思います。
しかし、前回も書きました通り、逆方向の白根火山⇒渋峠をブロンプトンで登るのは、よほどの健脚自慢でもない限り、やめておいた方が無難かと思われます。
なにしろ、スキーツアーだって万座や草津側から志賀高原へ抜けるというプランはきいたことがありませんから。
次回は白根火山レストハウスから草津温泉側へ下るところから続けたいと思います。