「旦那、日本には八百万の神がましまして、中にはちょいと変わった神さまもおわします。
なんでも、ここでお金を洗うとその出所が清清しくなって、しかも倍になって財布に戻ってくるんでさぁ。
いわば“laundering money and paying you back double shrine”(「資金洗浄して倍返しだ!」神社)ってなわけで」
などと出鱈目な話を海外から来た人に説明しても、いまやネットを見ればちゃんとした説明が載っているわけで、通りません。
しかし、washとlaunderのニュアンスの違いとはいかなるものでしょう。
両方とも「洗濯する」とか「洗浄する」という動詞ですが、前者は「罪を洗う」に使われ、後者は「(不正な金・商品)を(出所を隠したり外国へ預けたりして)合法的に見せかける」という意味が含まれています。
Launderの方が「白くする」「漂白する」という意味が強いのかも知れません。
今度英語に詳しい人に聞いてみよう。
(銭洗い弁天の入口。急坂の途中にぽっかりと手掘りのトンネルが口を開けています)
冗談はさておき、銭洗弁天の由緒とは次のようなものです。
源頼朝の鎌倉入府から三年ののちの1183年、相次ぐ戦乱で国内は疲弊していました。
そこで彼は民衆の苦しみを取り除こうと日夜神仏に祈っておりました。
すると1185年のある日、老人が夢枕に立ち、「ここより西北の仙境に泉が湧いており、この水を使って神仏を祀れば、人々は自然に信仰心をおこして悪鬼や邪気も退散し、国内は平穏に治まります。
私こそは隠れ里の主である宇賀神(日本の神話に出てくる穀物の神という説あり)です」と告げました。
目が覚めた頼朝はお告げどおりの泉を見つけそこに宇賀神をまつり、泉の水を使って神仏の供養を捧げると、国は静まり豊かになったということで、これがこの神社の起こりといわれています。
(朝早かったので=6時前後 人も少なく、Bromptonを押してトンネルを抜けました)当時は死者の祟りとか怨霊を恐れる習慣が普通にありましたし、1183年から1185年といえば、源氏が平氏を滅ぼすまさに源平合戦の真っ最中です。
そうした状況で、頼朝は自分についた人々の恨みや怨念を、清らかな水で洗い流したいという思いもあったのではないでしょうか。
また、戦争には勝ったものの、その後の復興にむけて農業生産を増やさねばならない時期だったのかもしれません。
(この写真は逆向きですが、トンネルを抜けると、今度は鳥居のトンネルをくぐります)そののちの1257年、時の執権北条時頼(頼朝の岳父、北条時政の曾孫)は、頼朝公の信心を受け継ぎ、ここの神を信仰していました。
そしてみなが福徳を授けてもらえる日を調べ、その日時の参詣を推奨しました。
同じころに弁財天を信仰する者が、持っている金銭をこの水で洗い清めると同時に心身を清めて行いを慎めば、不浄の塵垢が消えて。清浄の福銭になるといいお金を洗い出したのが、いまの「銭洗い」のはじまりということです。
(仙境と言われている通り、ちょっとした谷間の奥になります。4月だったので桜が咲いていました)お金を洗浄することで身も心も清めて行いを慎みましょうという意味だったのですね。
「100円玉なら倍返しは200円だけれど、千円札なら2000円、五千円札、一万円札なら…などと下卑た考えが頭に浮かぶ自分が恥ずかしいです。
それこそ「悪銭身につかず」でいつまでたってもお金持ちになれないのでしょう。
もっとも、お金持ちが幸せかどうかは別の問題だとこのブログで何度も申し上げてきましたが。
(本宮の裏手に洞窟があります。泉はこの中です。ここはBromptonをたたんで入ります)むかし「お金には色々な人の欲望や執着がくっついているから、あまり触らない方がいい」と子どもに諭している大人がいました。
色々な人の手を経てきているから、何がついているかわからないという意味合いもあったのでしょうが、あれで「お金は不浄なもの」という意識が芽生えたと思います。
その後にバブルの時代になって拝金主義が蔓延し、お金は汚いなんていう人は影をひそめてしまいました。
ただ、お金を象徴にして「心身を清めて行いを慎む」って悪いことではないと思います。
(左のざるにお金を入れて、右の下にある泉の水が流れている場所でお金を洗います)今の世の中、巷は「これを買えばあなたは幸せになれる」というコピーに満ち溢れています。
そして不景気から脱却するために景気先行、経済優先を掛け声にする人が大勢います。
けれども、「物に溢れた生活が幸せではない」という事実は、ある程度の年齢の人たちは経験してきたことではないでしょうか。
ブロンプトンだって、手に入れて旅に出さえすれば幸せになれるかといえばそうではない気がします。
それは手段と目的を倒置しているって話ですよね。
だから、もし心や魂を置き去りにして「皆が財産の面で豊かになれば、世の中は平和になる」という信念を持つ人がいたなら、それはあまりにも能天気な話だと感じてしまいます。
(北鎌倉からの道順。源氏山まではのぼりですが、夏は谷間でひんやりしています。日野俊基さんのお話は、いずれどこかで)あ、またお金の話に執着してしまい、失礼いたしました。
ブロンプトンで銭洗い弁天にゆく方法ですが、鎌倉駅裏口(西口)から駅を背に市役所通りをまっすぐ西へ進み、トンネルをくぐった先の佐助一丁目信号を右折するのが、正しい行き方です。
ただ、この道順だと最後の100mがもの凄い急坂で、前輪が浮いてしまって乗ったままのぼれません。
私のお勧めは、北鎌倉駅で下車し、薬局のかどを谷筋に入ってゆき、源氏山公園にのぼってから坂を下るというものです。
こちらだと、がんばって登れば源氏山まで乗ったまま行けますし、冬など天気の良い日は富士山を見ることもできますよ。
加えて週末の日中は大変人出の多い場所なので、朝いちの参拝をお勧めします。
北鎌倉の方から鎌倉へ向かう場合、普通に巨福呂坂(こぶくろざか)を抜けないで、地図の道を通り、参拝を済ませてから鎌倉へ入るなど工夫しましょう。
どうしても混雑時にブロンプトンをつれて行く場合は、畳んで曳くか、源氏山公園の入口に駐輪すると良いと思います。(おわり)